パチンコや競馬などのギャンブル、インターネット、アルコールなど様々なものへの依存症患者が増えていると報じられている。ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、最新刊『1%の力』(河出書房新社)でつづったエピソードから、好きなことを思い切り楽しみながら依存症にならず、限られた人生を楽しく生きたパチンコ好きな男性の例を紹介する。
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9月17日に『1%の力』(河出書房新社)という新刊を上梓した。その中に次のような話を書いた。
4年前、ある女性が男の子を産んだ。文字通り幸せの絶頂で、子どもが2か月になろうとしていたとき、夫の胃と肺に進行性のがんが見つかった。28歳の妻は、子育てをしながら愛する夫のために徹底的に尽くそうと考えた。
ところが進行性のがんを封じ込めることはできず、肺から脳に転移し、右半身まひを発症する。嚥下障害にもなり、食道に穴を開け、そこから管で栄養を摂取するようになっていった。
当の夫はずいぶんとやんちゃな人だった。病院でも新聞を読みながら競艇の舟券を妻に買いに行かせた。妻が「何かしてほしいことがある?」と聞くと、「家に帰りたい。一緒にいてくれたらそれでええ」と夫は返した。
病院からは「こんなに重病の人が家で生活できるわけがない」と引き留められたが、最終的には夫がしたいようにさせた。
「暇やからパチンコがしたいなあ」と夫が言い出した。妻は車椅子で連れ出そうと考えていた。しかし夫は「パチンコのために」と言い出し、片方にまひがあるにもかかわらず根性で猛訓練をし、杖をついて歩けるようにまでなった。
やりたいことをやろうとするとき、人間には不思議な力が湧いてくる。時折襲ってくる激痛には、食道ろうから痛み止めを入れてパチンコをやっていた。