「最もノーベル平和賞に近い男」と呼ばれるカナダ人をご存じだろうか。
日本での知名度は高くないが、世界がその動向に注目するダンディな紳士の名は、ヤンク・バリー氏(66)。弁舌さわやかな彼の口からは奇想天外な逸話が次々と飛び出す。この男、いったい何者なのか──。
名前を日本語でネット検索しても、ヒット数はごくわずか。しかしこの男は世界のセレブリティから一目置かれる存在だ。
テロ支援国家の独裁者ですら、彼の声は無視できない。ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットといった世界的富豪が、彼のためなら協力を惜しまない。3年連続でノーベル平和賞にノミネートされている男の言葉には、独特の響きがある──。
「私の『本職』は何かだって? それは難しい質問だ。あえて言えば『ルネッサンスマン』さ。常に動いている世界から注目されるターゲットであり、常に進化を続ける男──といったところかな」
その独特な物言いから毀誉褒貶(きよほうへん)が激しいというのもよくわかる。しかし、ただのビッグマウスでも、アウトローを気取るロックスターでもない。
ヤンク氏は2012年から3年連続でノーベル平和賞にノミネートされた。ハリウッドからは「彼の半生を映画化したい」というオファーが舞い込む。まずは彼の輝かしいエピソードから拝聴しよう。
「キューバでは、国家元首のカストロとボディーガードなしで散歩したこともあったよ。アメリカの大統領や中国の国家主席にもできないことだろう?
3年前には、親友のモハメド・アリの代理でマレーシアに招待された。駆け寄ってきた数千人の住民に握手やサインを求められたけど、どうやら彼らは事前の情報から私がアリだと勘違いしていたんだよ。翌日の新聞では私の写真がアリとして紹介されていたね(笑い)」
ヤンク氏が世界のVIPと並び立つのは慈善活動の功績があるからだ。
彼は1995年にボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリと共に「世界中の貧しい人に10億食を提供しよう」と呼びかける「グローバルビレッジチャンピオンズ財団」を設立した。
「『No one should go hungry(誰も飢えてはならない)』をモットーに難民キャンプや被害被災地などの貧しい人々にこれまで9億8800万食を提供したんだ。寄付した額は1000億円をくだらないね。
私はよく「ビリオネア(億万長者)」と呼ばれるが、実は稼いだお金はほとんど人にあげてしまった。でもいいんだ。それでもまだ飛行機も車も家もあるし、それなりにセンスの良い服も着られるしね(笑い)」
※週刊ポスト2014年10月10日号