なぜ「中国毒食品」はなくならないのか。その根底には、日本人とは相容れない中国人特有の「衛生観念」があるはずだ──そのことを間近で観察するため、上海の寿司屋にバイトとして潜入した上海在住のジャーナリスト・西谷格氏が、驚きの中国外食事情をリポートする。
* * *
冷蔵庫の扉や作業台の脚などが黒ずんでいたので暇な時間に拭こうとしたら「これで拭けばいい」とテーブルの上にあった布巾を手渡された。この布巾は、先ほどまで包丁やまな板、濡れた手などを拭いていたものだ。
掃除を終えて茶色く変色した布巾を先輩に返すと、ざっと水洗いをしただけで再びまな板を拭いていた。拙著『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)でも書いたが、中国の厨房では布巾=手拭き=雑巾なのである。
日本では産地偽装がたびたび問題となったが、ここでは産地に対するこだわりは皆無。看板メニューのサーモン寿司の産地を聞くと、「山東省の大連だ」との返事。だが、大連があるのは遼寧省。「千葉の横浜」といっているようなもので、地理感覚すら適当。しかも梱包されていた発泡スチロールには英語と中国語の表記で「チリ産」と書かれていた。国産だろうが外国産だろうが、特に興味はないらしい。
怪しげな産地表示もあった。「鮭ふりかけ弁当」などに使われる冷凍焼きサーモンの切り身パックは日本輸出用の商品らしく、パッケージには日本語で「デンマーク産」と書いてあった。だが別の箇所に貼られた中国語の表記を見ると「チリ産」とあるのだ。どういうことかと社員に尋ねたが、「俺も分からん」と首をかしげるだけだった。
14時になるとまかない飯の時間。中華風豚バラ煮込みなど、厨房でこしらえた大皿の中華料理を20人近いスタッフ全員でつつき合う。食器は客と同じものを使うが、自分たちが使う際だけ熱湯をかけて消毒していた。客にはしないのかよ、と言いたくなる。
中国人の食事の習慣として、骨などの食べかすはテーブルの上に吐き捨てる。だが、食後のテーブルは紙ナプキンで拭き取るだけ。醤油や食べかす等の汚れがあっても水拭きをしないので、テーブルはひどくベタついている。食後は自由時間となるが、仕事中はほとんど立ちっぱなしで足腰が激しく疲労していたため、ひたすら寝て体力回復に務めた。
※SAPIO2014年10月号