自動車業界、なかでもトヨタ自動車の業績が好調だ。2012、2013年と2年連続で自動車販売数が世界一となり、自動車メーカーで初の1000万台の大台を超えた。最強で盤石にみえるトヨタ自動車の世界一の座は、実は2位につけるフォルクスワーゲングループによって風前の灯なのだと大前研一氏が解説する。
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円安基調で、自動車業界にさらなる追い風と報じられている。とりわけ業界トップのトヨタ自動車の強さが際立っている。
自動車世界販売台数の2014年上半期(1~6月)は、トヨタ自動車(同じグループのダイハツ工業、日野自動車を含む)が前年同期比3.8%増の509万7000台で過去最高を更新し、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループやアメリカのゼネラル・モーターズ(GM)を上回って3年連続で世界首位となった。
トヨタは2013年度に世界販売台数が1013万3000台に達し、自動車メーカーで初の1000万台を突破した。2014年度も大台を維持する計画で、豊田章男社長体制は順風満帆に見える。
しかし、実のところトヨタの世界一の座は今や“風前の灯”である。2013年にGMを抜いて世界2位につけたVWの足音が、背後からヒタヒタと迫っているのだ。
VWの2014年上半期の世界販売台数は前年同期比5.4%増の506万6000台で、トヨタとの差は3万1000台しかない。しかも、2014年4~6月期はVWが262万3000台でトヨタの251万3000台を上回っている。需要が1~3月に急増し、その反動で4~6月は冷え込む日本市場の影響が大きいとはいえ、トヨタの世界一の座が危うくなっていることは否定できない。
VWは2018年までに世界販売台数で首位に立つことを目指しているが、2014年に世界一となる可能性も十分にあると思う。
今夏、話題になったのが、VWによるフィアット・クライスラー・オートモービルズの買収だ。ドイツの月刊誌が、VWのピエヒ家とフィアットのアニエリ家が話し合いを持ったと報じたのである。両社はコメントを拒否したが、もし買収が実現すればVWは、フェラーリ、マセラティ、アルファロメオ、ランチアなどを傘下に収め、アメリカではクライスラーの販売網を使うことができる。
いわば自動車業界のLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)のような“ブランド帝国”となり、世界販売台数で440万台を上乗せするから、1000万台で競ってきたトヨタをぶっちぎりで抜き去ることになる。とくにトヨタの強いアメリカ市場でクライスラーのネットワークにVW系の車種を乗せることの影響は計り知れない。
※週刊ポスト2014年10月10日号