9月中旬、中国・上海にある高級ホテル「シャングリラホテル」のミーティングルームで行なわれた投資セミナー。集まった40人ほどの参加者は壇上の不動産仲介業者CEOのスピーチに熱心に聞き入っていた。
投資対象は不動産バブルに沸く上海や香港ではない。東京や大阪などの日本の大都市だ。
配付資料によると、その日の説明会では「日本の不動産投資のメリット」や「具体的な不動産購入方法」、「所得税の支払い方」だけでなく、「安倍経済学(アベノミクス)」や「為替の推移」について細かく説明が加えられた。
〈人民元が日本円に対して大きく値上がりしている。3000万円のマンションであれば、12年1月に250万元もしたのに、14年1月には176.5万元まで下がった〉(資料より)
セミナーでは具体的な投資物件も間取りと合わせて紹介され、「参加費は無料だったが、参加者は全員、食い入るように説明に耳を傾けていた」(主催者)という。訪日して、自分の目で購入物件を探し回る中国人も急増中だ。
今、東京都心部の分譲マンションや商業用ビルなどの物件を見て回る中国人向けの「都心不動産購入バスツアー」が毎日のように行なわれている。主催するのは、大手・中堅不動産会社から、中国人専門の小さな仲介業者まで様々だ。
「円安が進み、この1年で参加者は1.5倍になった。彼らの購入意欲は驚くほど旺盛だ。参加者の半数が物件を購入していくこともある」(大手不動産仲介会社担当者)
都心部の不動産市場を席巻する中国マネー。なぜ彼らは日本、特に東京の不動産をターゲットにするのか。上海での投資セミナーの配布資料にはこう説明されている。
〈バブルとなっている中国不動産とは対照的に、日本の不動産のクオリティは高く、価格は安い〉
アジアの主要都市の不動産価格はここ数年で急騰したのに対して、東京の不動産価格は20年にわたるデフレで極端に低迷し続けていた。この2年弱のアベノミクスにより、都心の不動産価格はわずかに上昇に転じたが、国土交通省が9月18日に発表した東京圏の基準地価(7月1日時点)は、住宅地で前年比0.6%増、商業地で同1.9%増、東京の不動産の坪単価は都心でも400万~500万円と、まだまだ低い。例えば、シンガポール中心部では坪1200万円、台北でも坪1000万円するのがアジアの相場で、もちろんニューヨークやロンドンはさらに高い。
「都心の不動産価格は上昇し始めているといっても、まだ世界的水準からすると15~20%割安だと見られています。中国人はその分ぐらいの価格上昇が期待できると睨み、都心の不動産を買っています」(不動産コンサルタントの長嶋修氏)
中国人には北京五輪開催で中国がバブルになった記憶が鮮明にある。そのため、東京が2020年五輪の開催地に決まったことも熱気を煽っている。
※週刊ポスト2014年10月17日号