香港政府トップの行政長官選挙をめぐって、中国政府に抗議する民主派学生らの座り込み占拠運動は香港全土に拡大した。最初は官庁街の金鐘だけだったが、3日目には香港中心部の金融・ビジネス街の中環など5地区に飛び火した。10月1日からの中国・国慶節(建国記念日)の大型連休とも重なって、一般市民も抗議行動に合流。運動参加者は10万人以上に膨れあがった。
この背景には中国政府からの政治的圧力のみならず、強まる経済支配への香港人の不満がある。香港では中国人の不動産買い占めによりマンション価格が急騰しており、平均価格で5年前の2倍に達している。60平方メートルのマンションが日本円で1億円以上するのはざらだ。
本土からの観光客が年間4000万人も訪れてブランド品を買い漁り、「イナゴ」と呼ばれるバイヤーが本土では手に入らない外国産の粉ミルクなどを買い占める。押し寄せる中国化の波と圧迫される生活に対する香港の人々の不満が大規模抗議行動という形で爆発したといえる。
初日こそ多くの催涙弾を発射し占拠学生らを蹴散らそうとした香港警察も、多数の負傷者を出し、市民らの批判を受けたことで強制排除を諦めた。事態は長期化の様相を呈している。学生らが催涙ガスを傘で防いだことから、今回の抗議行動は「雨傘革命」と名付けられた。しかし「革命」が成功する見通しはまったく立っていない。
中国当局は中国版ツイッター「微博」などインターネット上で、香港の民主化運動に関する記述を片っ端から削除するなど、本土に情報が拡散することを警戒している。ウイグル族によるテロ続発など不安定要素を抱えているだけに、中国指導部は香港の民主化運動が本土に飛び火することを極度に恐れているのだ。
しかし事態がこのまま長期化すれば、最悪の事態も起こりうる。25年前の1989年6月、民主化を求める北京の学生らは政府批判を強めハンガーストライキへと突入。当初は学生たちへの支持も大きく期待も膨らんだが、中国指導部は人民解放軍を投入し、流血の天安門事件へと発展した。
すでに香港の新界地区には中国人民解放軍部隊6000人が駐留しており、香港に隣接する広東省深セン市では10万人もの部隊が出動準備態勢と伝えられる。雨傘革命は天安門事件と同じ流れで進んでいる。
文■相馬勝(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2014年10月17日号