市場規模10兆円の巨大産業に成長したコンビニエンス業界。小売業に逆風が吹く中で成長を続けてきたコンビニも、今や全国に5万店超。いよいよ飽和状態か、頭打ちかと囁かれている。新たな成長源をいかに見つけることができるのか。課題を抱えたコンビニの今後を占うヒット商品を作家の山下柚実氏がリポートする。ここでの題材はローソンが発売する2ヶ月で1200万個売れた「おかず」コロッケの「ゲンコツコロッケ」だ。
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コンビニの揚げ物といえばまずは若い男性が好むスナックやおつまみ、といったイメージが染み着いている。
「私たちの課題は、そのイメージを書き換えることにありました。4年ほど前から試行錯誤を続け、コロッケも3回目のトライでした」とローソンカウンターFF部シニアマーチャンダイザーの梅林寛仁氏(40)は少し厳しい表情をして言った。
どんなイメージに書き換えようと?
「おかずです」
主婦がわざわざ買いにくるような、おいしい「おかず」「惣菜」を提供できないか。それが課題でした、と梅林氏。
「例えば冷凍食品で最も人気が高いコロッケですが、これまでは価格ばかり意識されてきた。安いんだからこの程度の味で仕方ない、みんながそう思い込んできたのです。でも本当においしいコロッケとは何なのだろうか」
原点に立ち戻って考えた。
おいしさを決めるのは、「味」だけではない。「食感」も重要な要素になる。普通、冷凍コロッケは芋を潰してから固めて作る。揚げた時に「形が崩れない」ことが最優先されてきた。いわば、効率を考えた製造工程だった。
「しかし、当然ですがそれでは芋の素材感、感触は伝わりにくい。芋のおいしさは、ごろごろと塊が混ざっていた方がリアルに表現できるはず」
たとえ店頭で揚げた時に形が崩れるリスクがあったとしても、固形を残して素材感を際立たせる方を選択した。
「これも他社には無い、独自の加工法でした」
家庭の味を「狙った」のではなかった。そうではなく、「おいしいコロッケ」という本質的な価値をとことん追究したら、家庭の味に行き着いてしまったということだ。
「狙い通り、40代の女性が一番多く購入してくださっています。原料が限られていて今のペースだと年内に売り切れてしまうのが残念ですが」
手作りコロッケ──かつて家庭にあって、しかし今、家庭から消えてしまったもの。そこに、ヒット商品が生まれてくるエアポケットが存在しているのかもしれない。
※SAPIO2014年11月号