バカボンのパパやレレレのおじさんなど、多彩なキャラクターが登場する故・赤塚不二夫氏原作のアニメ『元祖天才バカボン』(日本テレビ系・1975~1977年)。なかでも異彩を放っていたのが、どこでもやたら発砲する「本官さん」こと「目玉のおまわりさん」だ。当時、東京ムービーで同作のアニメ化に携わったシンエイ動画の元会長・楠部三吉郎氏は、著書『「ドラえもん」への感謝状』(小学館)の中で、その知られざるエピソードを明かしている。
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実際の放映は1975年10月からでしたが、当然、その前から作り始めないといけません。急いでスタッフを集めて一席ぶちました。
「起承転結とか、そんなの何だ。シナリオになってないとか、そんなことはどうでもいい。話をまとめようとか、そんなこと思わなくていい。これは子どもたちに笑ってもらうもんなんだ。起承転結じゃない。起承転々だ」
天才の発想を起承転結のありきたりの枠の中に収めてしまうから、つまらなくなる。だったら先生の発想そのまま、起承転々でいけばいい。『天才バカボン』はストーリーマンガじゃなくて、ギャグマンガなのです。シナリオやストーリーが破綻していたって、笑ってもらえればそれでいいのです。
もうひとつスタッフに言ったのは、「目玉のお巡りさん(本官さん)」の扱いです。
赤塚先生のお父さんというのは、満州で警官をされていた方です。先生は、警察官が表では敬意を払われているけれど、裏では皆から罵られていたことも知っています。憲兵のようなこともしていたそうですから、あの当時、忌み嫌われる存在だったはずです。
厳しいお父さんだったそうですが、先生にとっては最愛の父上なんです。その辺をよく理解してくれとスタッフには言いました。だからあのアニメでは、お巡りさんはやたら発砲しますが、決して人に向かって撃っていないし、悪役じゃありません。
「バカボンで大事なのは目玉のお巡りさんだぞ」と、何度もスタッフに口にしました。
いざ始まってからは視聴率も良く、先生も「面白い!」と喜んでくださっていました。
※楠部三吉郎・著/『「ドラえもん」への感謝状』より