8月にイタリア、フランス、オーストリアに2週間ほど滞在した作家の落合信彦氏は、ヨーロッパの危機的な状況に直面したという。国と国との関係を飛び越え、境界線までもなくそうとした結果、治安は悪化し、無職の人間が政府におんぶにだっこ、そして稼がない国が、稼ぐドイツやフランスに頼るという現象が各国で起きている。その背景には移民を受け入れたことによる弊害もあるという。
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EUの劣化は、一つの現実を我々に突きつけている。移民の受け入れは国家を滅ぼしかねないということだ。
イタリアではいま、シリアをはじめとするアラブ世界から一日6万人とも言われる大量の移民が入ってきている。イタリア人はそのことに不満を抱えているが、イタリア政府は聞く耳を持たず、彼らを受け入れ続けている。移民の受け入れによって、EUから多額の補助金がもらえるからだ。
就職についても移民が優先されるため、アラブ系や黒人、中国人ばかりが職に恵まれ、生粋のイタリア人が職にあぶれるという本末転倒の事態が起きている。フランスでも、シャルル・ドゴール空港の職員はマイノリティーばかりだった。空港が移民を優先して雇っているからだ。
職を奪われるだけではない。移民の受け入れはその国の文化をも壊す。フランスに、バルビゾンという19世紀の画家ミレーが住んでいた古い町がある。ミレーが代表作「種まく人」に描いたような美しい田園風景がいまなお広がるこの町へは、パリの中心部から南へ1時間ほど車に乗れば着く。ところが、このバルビゾンへ向かう高速道路の壁には、いつの間にか、延々とアメリカのスラム街のような落書きが増えていたのだ。芸術とはおよそかけ離れた、ただの落書きである。
移民を受け入れることで、フランスは徐々に古き美しい町並みを失いつつある。
※SAPIO2014年11月号