昭和天皇の生涯を記録した61冊・12000ページにおよぶ『昭和天皇実録』が公表され、改めて昭和天皇とその時代がクローズアップされている。昭和天皇は、われわれ一般国民とどのように接してこられたのか、かつて陛下の前で落語を披露した三遊亭圓歌氏がとっておきの逸話を明かす。
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1967年5月、高輪プリンスホテルのホールで御前高座に招かれました。陛下をはじめ、当時の皇太子ご夫妻、常陸宮殿下もお見えになりました。陛下が落語を御覧になるのはこのときが初めてでした。
演目は当時人気だった創作落語「授業中(山のあな)」(「山のあなた」を「山のあなあなあな……」と言ってしまう吃音の子供の噺)。開演前から膝がガクガク震え、陛下がどこに座っておられるか気にする余裕がなかった。高座が始まりしばらくすると、前列から7列目に陛下が御座りだとようやくわかりました。
この高座を題材にして、後に私が作った創作落語『天皇陛下、初めて落語を聴く』には、「鳴物禁止で出囃子ができず調子が狂った」「天皇はまったく笑わなかった」「御前高座はもうこりごり」とありますが、実は全部、作り話。御前高座にいらした陛下は他のお客さんと同じ間合いで笑ってくださり、拍手もしてくださっていました。
【PROFILE】1932年東京生まれ。鉄道員を経て1945年に二代目・円歌に入門。1958年に真打昇進。1970年、三代目・三遊亭圓歌を襲名。
※SAPIO2014年11月号