「アベノミクスの嘘」がついに顕在化してきた。株価の上昇や大手輸出企業の“好業績”の陰で、中小企業が悲鳴をあげている。日本の企業の99%は中小企業であり、雇用の7割を支えている。この問題は単に「弱者を守れ」といった古い図式ではなく、日本経済全体の未来を危険にしている。
東京・大田区に本社を置き自動車部品などを製造する一英化学。プラスチックを原材料とする100点以上の部品を製造するほか、オリジナルの「すべら膳」という先が滑らない樹脂製の箸は、「大田ブランド」として地元の商工会議所などに認定されている。埼玉県にある同社の工場ではアームロボットやプレス機械が忙しく稼働していた。だが、西村英雄・社長の表情は暗い。
「大手が利益を上げているのは、うちのような中小や零細から吸い上げているだけなんですよ。円高の時は、メーカーから“輸出できないからコストを下げてくれ”という要請がきた。対応しないと仕事がなくなるから3~5%下げた。でも、円安になっても単価を元に戻してくれるわけではない」
電気代の値上がりの影響もある。一英化学の場合、以前は月60万円だった電気代が、今では80万円に跳ね上がっているという。それも納入価格に反映できない。
「来年、創業50周年を迎えるが、いつまで続けられるだろうか……」
西村社長はため息をつく。
中小企業がコスト増の納入価格への転嫁を言い出せないのは、この数年で日本の産業構造が大きく変わったからだ。経済産業省の統計によれば、日本企業の海外子会社の売上高は2002~2012年の10年間で約3倍に膨らみ、その主たる要因の一つが生産拠点の海外移転だ。
安倍首相は「国内回帰が起きる」と力説するが、そんな動きは見られず、下請け企業が少しでも納入価格を上げたいと言い出そうものなら、大手はさらに海外シフトを強め、中小は取引を打ち切られかねない状況なのだ。経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が指摘する。
「起きているのは完全な二極化です。大企業で最高益更新が相次ぐ一方で、中小企業、とくに地方の零細企業は激しく疲弊している。安倍政権の法人税減税にしても、利益が出ていない中小には何の恩恵もない」