夫婦の日常も様々だが、あらゆる夫婦のエピソードが、漫談家の綾小路きみまろにメールや手紙で続々と寄せられている。今回は寄せられたのは、ご主人(43歳)が旅行会社勤務の奥様(42歳)。ご主人は富山、奥様は三重の出身です。
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夫の実家に初めて行った時のこと。ご両親が私に「おチンチンかいとらんと広げられ」。ハァ? おチンチンって私、付いてませんけど……。戸惑う私に夫が「富山では『正座する』を『おちんちんかく』っていうんだ。『正座しないで足を崩して』という意味なんだよ」。
方言で驚いた私に対し、夫は私の実家、三重県熊野市の郷土料理に「あり得ないよ!」です。酢飯とダイダイ酢でしめた、さんまの押し寿司があるのですが、「脂の乗ったさんまを押し寿司にするなんて!」と夫。
「そうじゃないの。三陸沖で獲れる秋のさんまは確かに脂が乗ってるけど、それが熊野灘に下るうちに脂が落ちて、押し寿司にするのにちょうど良くなるのよ」。半信半疑の夫でしたが、正月、私の実家でさんま寿司を食べると「美味い!」。高菜の浅漬けの葉で包んだおにぎり「めはり寿司」や、酢飯を昆布に包んだ「昆布巻き寿司」も「最高の郷土料理だ!」と絶賛です。
ですが、私が「富山にはこういう美味しい料理ってないでしょ?」というと、途端に対抗意識を燃やし、「富山湾で獲れるホタルイカの料理なんか最高だぞ! お義母さん、ぜひ一度、富山に来て下さい。ホタルイカの料理屋に行きましょう。もちろん、僕が抱いてやりますので」。「抱いて」の方言に、思わず胸を押さえる母と、眉を吊り上げる父。
「ち、違うのよ。『だいてやる』というのは、富山弁で『奢ります』っていう意味なの!」。慌てて訂正する私。料理の話題はどこへやら。富山弁で驚いたり驚かされたりする私たちです。
※週刊ポスト2014年11月7日号