【著者に訊け】小川糸さん/『にじいろガーデン』/集英社/1512円
家族とは何か。ベストセラーとなった『食堂かたつむり』や『つるかめ助産院』でも繰り返し描かれてきたテーマだが、「私にとってはこの作品が1つのゴール」だという。
「原家族、つまり最初の家族を選ぶことはできないけれども、もしそこでつまずいてしまっても、ある程度の年齢になればやり直しのチャンスはありますよね。家族って本当は、与えられるものではなくて、自分で見つけて育てていくもの。血のつながりではなく、共有した時間が全てだと思います」
レズビアンカップルが農村に駆け落ちして、それぞれの息子と娘を育てながらゲストハウスを営むというあらすじは、荒唐無稽に思われるかもしれない。しかし、彼女たちの原動力となっているのは「自分に嘘をつかないで生きたい」という、とてもシンプルな欲求だ。
「ベルリンやバンクーバーを訪れると、女の人同士のカップルが普通に手をつないで街を歩いていたり、公園でキスしていたり。そういう街は同性愛者だけではなく、私のような外国人にとってもすごく居心地がいい。少数派の人たちに対する意識が柔らかいんですね。
日本でも、可視化されていないだけで、女の人同士で子供を育てているカップルは存在します。ものごとが大多数の人たちの意見で動いていくのは仕方のないことだけれども、私も子供の頃から、多数決の場面では常に少数派でしたから。この本が少しでも、少数派の存在を知って、意識を広げる入り口になったら嬉しい」
ケンカと仲直りを繰り返して、周囲の偏見を乗り越え、喜びも悲しみも分け合う「幸せ探偵団」。そんな4人家族の中で、母の駆け落ちに終始協力的だった息子・草介は、異質な存在として描かれている。
「彼だけは、自分に嘘をつき続けていたんですね。レズビアンである母親を理解して、みんなにやさしい一方で、ひとりでいろんなものを背負いこみすぎて、結果的には『家族憲法』を破ってしまった。人間である以上、頭でわかっていてもできないことはありますし、どんなに理想的な家族でも、どこかに割り切れない問題はつきまとうもの。書いていていちばん苦しかったところですが、そこから目を逸らしたくはなかった」
小川さん自身は音楽プロデューサーの水谷公生さん(67才)と結婚。20年近く共に暮らしてきた。
「妻と夫の役割は、あまり考えていません。今は旦那さんの仕事が忙しいので、主に私が家事をしていますが、少し前までは逆でしたし。お互い無理をしないことがいちばんです。最近犬を飼い始めたことで、より家族らしくなった気がします。1つの命に対する責任を分担しているからでしょうね」
(取材・文/佐藤和歌子)
※女性セブン2014年11月13日号