アベノミクスによる円安の恩恵で大手企業の多くが好業績をあげている。その一方、国内の中小企業の中には円安に苦しめられている企業が多い。
埼玉県川口市で鋳物製造を行なう石川金属機工の石川義明・社長が苦しい現状を打ち明ける。
「銑鉄関係の原料や材質調整のための添加剤など原材料はすべてドル建てで入ってきていて、この2年でコストは約2割も増した。一方で注文のほうはいい時と比べると、昨年は4割減でした」
同社では鉛筆1本持ち出すのも許可制にし、照明を減らすなど細かいところまで経費節減を徹底しているが、焼け石に水だ。
「社員の給料を下げざるを得ない状況です。大手企業に対して政府が『賃上げ! 賃上げ!』と騒いでいるのはおかしい。お金が大手の社員の賃上げに使われれば、我々のところに金が回ってこないのだから」(石川社長)
賃上げを最も熱心に説いているのは安倍晋三首相だが、中小企業の現実など知りもしない。
東京都台東区にある玩具メーカーの社長は「どんどん円安が進むリスクを考えたら日本の市場には期待せず、海外で生産して海外で売るほうがいい。これから生きる道はそれしかない」と断言した。
だが、当然のことながらそうした決断ができる中小企業は多くない。「経営者が高齢で、資金的に安定しない中小企業がこれから海外に打って出るのは無理」(信用組合関係者)というのが実情だ。川口鋳物工業協同組合の岡田光雄・事務局長の話。
「組合に加入している事業者の7~8割が従業員数10~20人の小規模事業者。海外展開できる資金も人員もいません。
戦後の復興期をピークに組合員数は徐々に減っていたが、ここ数年はようやく落ち着いていた。それが最近になって、再び倒産・廃業が増えてきた。生かさず殺さずでやってきたのに、殺される側に回ってしまったわけです」
2008年のリーマンショック後、各企業は内部での節減努力でなんとかしのいできたが、アベノミクスの円安がそうした努力を一気に吹き飛ばすというのだ。
「為替予約でリスクヘッジができている体力のある企業は今はまだいいが、3~5年の長期為替予約の更新時に急激な円安の影響を一気に受けることになる。今後は比較的体力のあった企業まで追い込まれる可能性がある」(前出の信用組合関係者)
※週刊ポスト2014年11月7日号