私立中高の学校説明会のシーズンである。コラムニストのオバタカズユキ氏が訪れたとある私立中学の「変な説明会」をレポートする。
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著者が、私の知人であり、このNEWSポストセブンのレギュラー執筆者でもあるため、迷うには迷った。だが、書いた人が誰であろうと、その本の中身が無類におもしろく、かつ発売早々、各地で品切れ続出という現象をおこしているのだから取り上げても問題あるまい。
神田憲行著『「謎」の進学校 麻布の教え』(集英社新書)が、大きな注目を集めている。中学受験の世界で男子御三家の1つとして名高い麻布(麻布中学校・麻布高等学校)の実態をルポした本なのだが、2年間かけた取材時の仮タイトルは「麻布って変」だったそうだ。
読んでみると、たしかに「変」のオンパレードである。50年以上、東大合格者数ベスト10入りが続いている超進学校であるにもかかわらず、生徒たちはロクに勉強をしていない。著者が高校1年生に実施したアンケートによると、1日の勉強時間(授業以外で、試験前を除く)でもっとも多かったのは、「三〇分くらい」で、次点は「ゼロ時間」と「一時間」だ。
生徒一人ひとりの自主自立の精神を尊重する麻布には、校則もないに等しい。例えば、服装についてはこんな調子だ。
<「服装は基本的に自由で、私服でも構いません。制服に近い標準服も用意してありますが、ボタンを一セット八〇〇円で販売しておりますので、ご兄弟の中学の学生服をお持ちの方は、そちらにボタンだけつけ替えていただくと安上がりになります」
彦坂先生のとぼけた説明のたびに保護者席から笑い声が起きる。まるでトークショーのようだ。>
どうやら学校説明会そのものも「変」らしい。今年はたまたま私も、都内の中高一貫校を何校か見学しているのだが、ユニークと評判の学校でも説明会は型通りなものだった。それが麻布の場合はまるでトークショー?
本当か。書かれてある内容を疑ったわけではないが、だったらこの目で確かめたい。そんな気持ちがわいてきた。調べてみたら今がちょうど開催期で、誰でも予約なしの参加ができるという。ならばと、土曜日の昼下がりに開かれるリアルな麻布の学校説明会に、私も参加することにした。
ちょっと道に迷って午後2時スタート直前に到着。もう会場の講堂1階席(定員900名)はほぼ満杯で、最後方の椅子にかろうじて着席することができた。会場を見まわすと、他校の学校説明会よりも父親らしき参加者の割合が多い。当然のことながら、たいていは息子連れなのだが、どう見てもまだ小学校3年生程度の男児がけっこういる。御三家を狙うなら、そのくらい早期に意識づけをする必要がある、ということだろうか。
講堂の壇上向かって右手に椅子5脚。そこに校長、校務主任2人、教務主任、事務長の計5人が着席。すると、それまでざわざわしていた会場が静まった。そして、まず校長が、檀上中央で麻布学園創立者の江原素六の人物像や教育理念について語り始めた。なるほど、これが麻布の伝統と格式か……ではない。こんなに堅苦しくては、ちっともトークショーじゃない。
本の取材時と今とでは校長以下のメンバーも違うので仕方ないかなと思いつつ、次の「麻布の現在」と題するスライドを使った学園生活の説明を聞く。担当の先生がレーザーポインターを片手に、校内施設や服装や学習カリキュラムなどについて解説。これも事務的な感じで最初は期待外れだったのだが、20分くらい経過した頃だっただろうか。1枚の動画で会場の空気が変わった。高校1年生の授業風景に、進学校らしくない生徒が映っていたのだ。
「えー、金髪の子もいますが、外国人ではありません(笑)。たぶん文化祭のために髪をこうしていまして、終わったら坊主にしたりします(笑)」
本にも書いてあった。麻布はとにかく文化祭に力を入れる生徒が多い。特に文化祭実行委員会のスタッフは髪を派手に染めて、学園最大のイベント運営に全力を尽くすのだそうだ(なぜ髪を染めるのかは諸説あり)。
「あ、寝ている生徒もいますね。一番前の席ですが、(教師から)死角なんですねー(笑)」
先生、調子が出て来たようだ。画像にネタ要素を見つけては、レーザーポインターをぐるぐるさせ、ちょっと楽しげに解説してくれる。
「こうして、ノートをとらないで、カメラで黒板を写している大バカ者もいます(笑)」(高校3年生の授業風景)
「弁当を持ってくることが基本なのですが、育ち盛りなので早々に食べて(笑)、昼も食堂で食べる生徒が多い。食堂にはアイスもあって、生徒の心が安らぐ場所です(笑)」(早弁をした生徒らのさらなる昼食風景)
「これが標準服です。入学して最初はみなさん喜んで作るのですが、1週間ほどで皆着なくなります(笑)」
ドカンドカンとウケていたわけではないが、そのたびに会場は温かい笑いで包まれていた。1時間半の説明会に小学生たちは飽きまくっていたけれど、親御さんたちは満足そうだった。ヤンチャな生徒らがのびのびと学園生活を送っている様子に我が意を得たり、という感じだった。