危険ドラッグが原因とみられる事件や事故が続発している。若者を中心に人気が高いと表現されることから、30代以上だと自分とは関係がないと思いがちだが「30~40代以上、おじさんと呼ばれる世代の人ほど注意したほうがよいです」と『脱法ドラッグの罠』(イーストプレス)の著者、森鷹久さんは警鐘を鳴らす。
「いまは世間の目も規制も厳しいのでやめてしまったかもしれませんが、ホテル街のそばにある販売店では注文を受けた客のもとへ届けるデリバリーサービスをしていました。通販では相手の年齢などはわかりませんが、デリバリーだと顔を合わせるのでおおよその年代がわかる。配達を頼む客は7割が40代以上のおじさんばかりだと店のスタッフは言っていました」
確かに、店頭を訪れるのは圧倒的に若者だ。しかし、若者ではない人たちのほうが危険ドラッグの依存症になりやすく、脱出しづらいようだと森さんは続ける。
「薬物患者の更生施設には危険ドラッグが原因という患者が激増していますが、彼らは若者ばかりです。というのも、覚せい剤などであれば、使用が発覚すると警察や行政などから強制的に入院させられるなど治療することになる。一方で、危険ドラッグは使用しても強制力が働きません。そのため、親などから強制力が働きやすい若者は更生施設へ来ることができるのです。でも、社会的な地位も持つ大人になってしまうと、自分の判断で治療に来ない。
取材をしていても、若者よりも上の世代のほうが危険ドラッグへの依存が深刻になる危険性が高いと感じますね」
危険ドラッグによる事件や事故を振り返ると、いい年齢の大人ばかりだ。2月に福岡で運転する車を暴走させた男は36歳、危険ドラッグという名称を定めるきっかけになった池袋の暴走事故を起こした被告は37歳だ。交通事故を起こして警官相手に大立ち回りをした元作曲家は47歳だったし、自宅に大量に所持していた男性は20年以上刑務所に勤務していた44歳の男性刑務官だった。いずれも、若者ではない。
さらに、危険ドラッグ使用は「脱法」という名称がながらく使われていたせいで誤解されているが、ときには覚せい剤などよりずっと危険だと森さんは訴える。
「法を逃れるためにひんぱんに組成を変更させ製造方法も安定していないため、同じ製造元で同じパッケージの危険ドラッグでも、使ってみないとどんな性質のドラッグなのかわからず、強さも分からない。ということは、急変して担ぎ込まれたとき救急対応で治療してもらおうにも、適切な方法が見つけづらいということになります。
覚せい剤や大麻の経験者のあいだでは、以前から『脱法ドラッグなんて怖いものは使わない』と言う人までいる有様です」
総務省が9月に発表した資料によれば、危険ドラッグによるものと疑われる救急搬送の数は昨年が1346件、今年は6月末までの時点で621件にものぼる。若者だけに関わることだろうと考えていると、突然、身近な問題としてあらわれるかもしれない。