埼玉県川越市の幹線道路沿いにある「川越救急クリニック」。わずか200坪の土地に建てられた2階建てのこの病院は、他の救急病院と比べるとお世辞にも立派とはいいがたい。しかし、この小さな病院が埼玉県の救急医療を支えている。
「昨日の睡眠時間はゼロですね。まぁ、でも寝られる時は4時間ぐらい寝てますよ」
疲れた顔ひとつ見せず、笑顔でそう語るのは院長・上原淳さん(51才)だ。
同クリニックは毎日、午後4時から10時を診療時間とし、10時以降は、時間外診療として翌朝9時まで対応。この診療時間の中で、月に100件以上、年間約1800件の救急車搬送を受け入れ、その受け入れ率は県内トップを維持している。
「埼玉県は人口10万人当たりの医師の数がワースト1位。そこで特に医師が少ない夜間救急の対応に重点を置いたクリニックを開業しようと思ったんです」(上原さん、以下「」同)
上原さんが「川越救急クリニック」を開業したのは2010年7月のこと。個人救急病院としては国内初となる。
救急搬送しやすい幹線道路沿いの農業用地を買った。建物はシンプルな作りだが、診察室に手術室、CTスキャンなど救急医療を 行う上で必要な設備は全て揃えた。開業資金はおよそ3億円。そのほとんどが借金だった。
「うちには2人の子供(長男=16才、長女=13才)がいますが、妻(44才)は一度も文句を言いませんでしたね。ぼくは言い出したら聞かないですし、きっと諦めてるんでしょうね(笑い)」
元看護師だった夫人は、子供たちの学費のために昨年から仕事を再開。上原さんを支えているのは夫人だけではない。現在、クリニックのスタッフは、常勤で医師2名、看護師4名、事務員3名。週1回のパートで来てくれる医師、看護師が十数人。みんな上原さんの救急医療への思いに賛同して集まった。
「うちのクリニックは、ローンや人件費も含めて月に850万円必要なんです。うちのスタッフは他の病院よりも精神的にも肉体的にもしっかり働いてますから、給料は減らしたくないですからね。ぼくの給料は20万円ぐらいですか。生活費は週2回、麻酔医のバイトでなんとかまかなってますよ」
そんな上原さんが考える理想の医療とは何なのだろうか?
「ホスピタル(=病院)の語源はホスピタリティー(=心のこもったもてなし)。だからぼくは医療もホテルや飲食産業に負けないおもてなしがあって当然だと思っているんです。今の医療は、具合が悪くなった患者さんが医師がいるところへ出向かなければならないし、患者さんが医師のスケジュールに合わせて診てもらう。もてなす側は医師の方であるはずなのに、患者さんが医師の顔色をうかがっている。
ぼくが目指すのはゲストの幸福を願う、気配りの精神のTDL(東京ディズニーランド)のようなおもてなしです。患者さんのリクエストには極力応えてあげたいと思っていますし、患者さんが進んで病院へ行きたくなるような医療を目指したいと思っています」
※女性セブン2014年11月13日号