小中学校で「運動会の華」と言えば組体操だ。中でも、人が何段にも積み重なっていく「人間ピラミッド」は演技のクライマックスに行なわれることが多い花形だ。しかしこの10年、関西を中心にピラミッドの巨大化が進み、高さ7mに達することも。当然、重大な事故につながりやすい。名古屋大学准教授の内田良氏がレポートする。
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なぜ、巨大ピラミッドに歯止めがかからないのか。それは、多くの教師と保護者が、「組体操は子供にとって良いものだ」と頑なに信じ、厳しい練習や本番を通じて得られる「一体感」や「達成感」が何物にも代えがたい宝だと考えるからだ。
実際に「子供が組体操を頑張る姿を想像するだけで涙が出る」という保護者や教師は多い。「子供のため」という「善意」や「教育的配慮」が危険な組体操を再考できない最大の要因である。
組体操の指導と普及に尽力する「関西体育授業研究会」が開いた「組体操実技研修会」の報告資料には、「大ピラミッドの指導」として以下の記載がある。
〈基本を押さえれば難しい技ではありません。ですが、油断大敵です。(略)上から児童が降ってくると、逃げ場がないので、数人を巻き込んだ大きな事故になる恐れがあります。過去に一度に4人骨折という事故もありました〉
通常、一度に4人骨折する大事故が起きれば組体操の実施自体が見直されるが、同会の報告は安全管理の徹底を訴えるだけで、運動会のピラミッドを中止するという発想には至らない。
そもそも組体操は戦後わずかの期間、学習指導要領に記載されたが、その後、削除された。指導要領に掲載されず、学校で行なう根拠のない活動が「運動会の花形だから」と教育の場に組み込まれ、子供たちが大きな危険に晒される現実について、文科省や教育委員会は黙認している。
この状況でまず必要なのは現実を直視することだ。私自身、保護者や教師から「組体操が危ないから調べてくれ」とツイッターやメールを頂いた当初、「組体操が危ないならどんな競技でも危険じゃないか」とさえ思った。しかし、動画サイトに投稿された高さ7mの10段ピラミッドを見て、「これは本当に危険だ」と考えを改めた。百聞は一見に如かず、なのだ。
組体操で得られる「教育効果」や「感動」を一概に否定はできないが、多くのデータが示すように安全面でのリスクが高すぎる。一体感や達成感を得ることが目的ならば、より安全な組体操や別の種目で代替できるはずだ。
危険な組体操を抑制することは子供を守ることはもちろん、万が一の事故が生じた場合に教師を訴訟リスクから守ることにもつながる。「これはおかしい」と保護者や教師が声を上げ始めた今こそ、組体操の是非についての議論を深めるべきである。
※SAPIO2014年12月号