今年の夏は残暑があまり厳しくなく雨も多かったため、猛暑だった過去2年に比べれば松茸の生育が良好なようだ。近年では山登りがブームだが、その最中偶然に松茸を発見した場合、その権利は発見者と山の保有者のどちらにあるのだろう?
【相談】
山間に引っ越した友人を訪ねたときのこと。散歩がてら山を登っていると、偶然にも松茸を発見。2本抜き取り帰ろうとしたら、山の所有者だといい張る老人が現われ、松茸はうちのものだから返してくれといわれました。私有地の看板は見当たらなかったのですが、それでも松茸を返さなければいけませんか。
【回答】
当然、戻すべきです。民法第88条に「物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする」という定めがあります。これを解釈して、天然果実とは、ある物(元物)から、その用法である当該元物の経済的目的にしたがって収穫できるもので、自然的・有機的に生み出されるものといわれています。
リンゴの木から収穫されるリンゴは、元物である木から自然的に産出するリンゴの実をその経済的目的にしたがって収穫するのですから、天然果実になります。この場合、リンゴの木はもちろん、果実ではありません。
そして、民法第89条は「天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する」と定めています。すなわち天然果実は、収穫する権利のある人の所有になります。収穫する権利があるのは、通常の場合、元物の所有者です。つまり、天然果実を元物からもいだときには、元物の所有者などの権利者の所有になるということです。
さて、松茸は山から自然的に産出し、その収穫が山の経済的目的であることはいうまでもありません。そうすると、元物があれば、松茸も天然果実になります。参考になる判例があります。
最高裁は、隣地Aから根が伸びてきて、土地Bに生えた竹について、土地Bの天然果実と判断しています。土地も元物になるのです。そうであれば、松茸は松茸の生育した山の天然果実です。結局、山の持ち主が松茸の権利者ということになります。老人の要求は正当です。
松茸は貴重品です。日常、持ち主が見張っていたような場合、自生する松茸はその占有下にあると解され、窃盗に問われることもあります。あなたは山の持ち主が占有している認識がなかったと思いますが、要らざる紛争に巻き込まれかねません。返すべきです。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年11月21日号