<話し下手 たばこを吸って 聞き上手>
この一句は、東京都たばこ商業協同組合連合会が毎年募集している「たばこ屋さん川柳」の過去の入賞作品だ。いまや分煙化が進み、オフィス内でも喫煙所に立つ回数が多くなれば、“サボリーマン”の汚名を着せられることもしばしば。
だが、喫煙所で繰り広げられるさまざまな雑談から、希薄になりつつある人間関係や会話術を磨いている人も多い。都内の電機メーカーに勤める40代の男性がいう。
「最近は社内で“飲みニケーション”をする機会がめっきり減り、業務連絡もメール報告がメイン。そうはいっても、メールだけの連絡では意思疎通がうまくできない場合が多いので、本当は普段から対面でフランクな会話もしたいのですが、そこまでできる人は同じ部署でも限られています。
そんなときに喫煙所に行けば、一緒に飲みに行くほどの関係ではない人たちと仕事以外の話で盛り上がることができる。一服タイムは職場の人間関係を繋ぐためのチャンスでもあるのです」
もっとも、近年は業務の細分化により、自分のノルマさえ粛々とこなしていれば、必要最低限のコミュニケーションで済んでしまう職場も増えた。だからこそ、他愛ない話題でも同僚たちの性格や関心事などを窺い知ることができる点で、喫煙所が貴重な場所となっているのだ。
では、実際に喫煙所ではどんな“ネタ”が頻繁に話されているのだろうか。
あるネット調査によれば、テレビ番組や時事ネタなどの世間話が圧倒的に多く、次いで、仕事の話、金銭関係の話、恋愛・異性の話……と続く。某IT企業に勤務する30代のシステムエンジニア(SE)が話す。
「あまり仕事上で交流のない部署の人と一緒になったときは、『今日は寒いですね』『午後から雨降りますかね』なんて天気の話をすることが多いのですが、すぐに会話が終わってしまう。それよりも、野球やサッカーなど誰でも興味を持ちそうな話題のほうが受けはいいです」
たかがスポーツ談義と侮ってはいけない。仕事でもなんでもない雑談の場で対立の火種を撒いてしまうこともあるからだ。
「特に上司のひいきチームや好きな選手をけなしてしまうと、嫌な気持ちにさせてしまうので気は遣っています。
自分の好きなチームが負ければ、『いや~、昨日の試合は参りました。本当にウチのチームはダメですね』と相手を持ち上げる。そうすれば上司も『ウチだって、あの攻撃はもっと畳み込むべきだった』と会話が弾むもの。聞き役に徹することも重要なんです」(前出のSE)
また、セクハラ規定が厳しく、社員同士のプライベートを聞くことはご法度な時代とはいえ、喫煙所では相変わらず身の上話も多い。
「結婚や離婚、子供の年齢や両親のことなど、家族が話題にのぼることは多いですね。直接、『息子さんは何歳になったの?』と聞いたりすることもあるし、他部署の社員の結婚の噂などを耳にすることもある。育児や子育て、介護などで日本人の働き方が変わりつつある中、そうした情報を知っておくのも管理職としては必要だと思います」(商社勤務の50代男性)
しかし、いくら話が膨らんでも、一服時間は3~5分程度がせいぜい。それでなくても、最近はドライな職場のコミュニケーションそのままの雰囲気が喫煙所にも蔓延してきたという。
「喫煙所でうつむきながらスマホを操作する人が増えたのは寂しいです。仕事を中断しているという引け目もあるのでしょうが、知っている社員とでも軽く挨拶をするだけで、無言の時間が続いて気まずい空気になることもあります。
でも、せっかく喫煙所は性別や年齢、肩書きを超えたコミュニケーションが取れる場なのだから、短い雑談でもできるだけ多くの人と継続的に繋がっていたほうが、後々の人間関係にも有利だと思うのですが……」(建設業・30代男性)
職場に残る数少ない社交場。“話し下手”な社員を増やさないためにも、喫煙所での団らんはもう少し大目に見てもいいのかもしれない。