「日本人は古代ユダヤ人の末裔である」「源義経は大陸でジンギスカンになった」日本人のルーツに関わる奇想天外な言説は数多い。『偽史冒険世界』などの著書がある長山靖生氏が解説する。
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外見的にも宗教・文化的にもまるで似ていない日本人とユダヤ人が同じ民族という、「日ユ同祖論」。大正13年、酒井勝軍の著作『猶太民族の大陰謀』で広く知られた。酒井は語学に優れ日露戦争やシベリア出兵で軍の通訳を務めたほどのインテリである。
彼は日本人がイスラエル史における「失われた十支族」であり、日本国こそ旧約聖書に書かれた「約束の地」であると主張。実際にモーゼの十戒を刻んだ「十戒石」を日本国内でいくつも”発見”した。
クリスチャンの酒井はアメリカ留学中、白人に差別された苦い経験から、日本人こそが正しいキリスト教徒として神の理想を現実にしなければと誓った。そしてキリスト教の根源であるユダヤ教に着目。日本人とユダヤ人は同祖であり、なおかつ「正統のユダヤ人」たる日本人が「閏統(正統でない系統)のユダヤ人」を戒めるべしという驚くべき妄想を生み出した。
この酒井説から”分派”が続々登場。イスラエル十二支族の聖裔のひとり、「ガド」が日本の天皇(ミカド)の祖先であるとの奇説や、日本の囃し言葉や民謡はヘブライ語で解釈できるとの珍説が生まれた。この説によると、秋田音頭の「ヤートセー」は「エホバ放棄せり、敵を」で、「ナンジャラホイ」は「天子をエホバは守りたまりえり」となる。
※SAPIO2014年12月号