看板政策であるアベノミクスのメッキは剥がれ、「主張する外交」は世界から全く相手にされない。それでも安倍政権の失政は覆い隠される。このままでは日本に国家的危機が訪れると指摘するのは、30年以上にわたって日本政治を研究してきたカレル・ヴァン・ウォルフレン氏(アムステルダム大学名誉教授)だ。同氏は安倍政権がアピールする「官邸主導」の正体は、メディアと官僚の作り上げた「虚構」だと喝破する。
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日本人は「安倍首相の果たしている役割」は何だと考えているだろうか。
「決断を下すこと」だとすれば、それは全くの間違いだ。安倍首相がやっているのは「決断を下したフリをすること」であり、「日本に真の民主主義があると見せかけること」である。
日本の有権者は何よりもまず、この国の意思決定を牛耳る「現状維持中毒者」の存在に気が付かなければならない。それはメディアと官僚である。
私は30年以上にわたって日本政治を研究してきたが、安倍政権の誕生から約2年が経ち、一時期の日本政治に芽生えかけた改革の機運は消え失せてしまったように見える。
政治主導は建前となり、官僚組織が意思決定を独占し、「首相が決断しているかのような虚構」を大メディアが伝える。
安倍政権の看板政策であるアベノミクスにしても、安倍首相ではなく一部の財務官僚が主導したものであり、株価など数字の上での見せかけの景気回復をメディアが煽っただけだ。
日本の大メディアが国民にとって非常に危険なのは、彼らが「事実を創造する」からだ。
官邸を取り巻いた反原発デモや消費増税などの政策に対する抗議活動が大メディアで報じられることはほとんどなかった。今年6月末には、集団的自衛権に関する憲法解釈を変えようとする安倍政権に抗議して、男性が新宿駅前で焼身自殺を図った。民主主義を重んじる国ならトップで報じられて当然のニュースだが、NHKは無視し、他の主要メディアもほとんど報じなかった。
メディアは本来、権力を監視し、民主主義を守る役割を果たさなければならない。しかし、日本の大新聞やNHKがやっていることはむしろ逆だ。日本国民が国内外の現実を正しく理解する妨げとなっている。
「社会秩序の維持」を優先しようとし、変革につながる刺激的な事象は黙殺する。あるいは自ら進んで変革の芽を摘もうとする。
【プロフィール】1941年、オランダ生まれ。ジャーナリスト、政治学者。NRCハンデルスブラット紙の東アジア特派員、日本外国特派員協会会長を歴任。『日本/権力構造の謎』『人間を幸福にしない日本というシステム』などのベストセラーで知られる。
※週刊ポスト2014年11月28日号