いよいよ総選挙だ。安倍晋三首相は自ら「アベノミクス解散」と名付けて、政策の是非を問う構えである。
反安倍政権を基本スタンスにしているマスコミは一見、中立を装いながらも、実際はアベノミクスがいかに成果を挙げていないか、を示すのに懸命だ。私自身は100点満点で70点と採点する。もちろん合格点である。
私がもっとも重要な成果とみるのは、就業者数の増加と完全失業率の減少だ。「仕事が増えて働ける」という環境作りは経済政策の核心である。就業者数は9月で実に21か月連続して増えた。
そう言うと、批判派からはすぐ「増えているのは非正規雇用ばかりで正規雇用は減っている」という声が出る。だが、ここでも実は重要な変化が起きている。
前年同期比でみた正規雇用の減少幅がこの半年間で急速に小さくなり、7~9月期はついにプラスに転じたのだ。半面、非正規の増加幅は小さくなっている。これは何を物語っているか。
非正規の人手不足感が強まって、企業は正規雇用を増やし始めた。それも理屈に合っている。景気が良くなると、企業が真っ先に増やすのはパートやアルバイト、派遣社員たちだ。次いでパートなどの賃金が上昇する。これは実際に起きた。
それでも人手が足りなくなると、企業はいよいよ正社員化に踏み切る。そうしないと長い目で見て経営が安定しないからだ。コーヒーチェーンなどで正社員化の動きが加速したのは、そういう事情である。まず非正規が増えたのはその通りだが、いまは非正規から正規への動きが加速している段階ではないか。
そんな中で2回目の消費増税を先送りしたのだから、企業も安心して雇用を拡大するだろう。この後に来るのは新規開店や設備投資である。
国内総生産(GDP)の前期比伸び率は消費増税の反動減が起きる前から低下傾向だったという指摘もある。だが、本当に重要なのは前期比ではなく、ここでも前年に比べた経済の水準を示す「前年同期比」である。
これで見ると、増税前までは実に3四半期連続で2.5%前後から3%の成長を遂げていた。この1点をみても、アベノミクスは4月まで完全に成功しており、ただ1つの失敗が消費増税だったことがあきらかだ。だからこそ、ここで軌道を戻す必要がある。増税先送りで環境は整った。有権者はそこをしっかり見極めるべきだ。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2014年12月12日号