異例の珍事の映像は、テレビで繰り返し流された。衆議院解散で「万歳三唱」が2度行なわれた件である。
“先陣”を切ったのは自民若手議員だったらしく、民主党の海江田万里・代表は「解散詔書を読んでいる途中に万歳の声が出た。自民党は浮き足立っている」と鬼の首を取ったように批判し、メディアも「フライング万歳」と報じた。
が、意外な真相があった。当日の様子を振り返ろう。本会議場で衆院事務総長が紫の袱紗から解散詔書を取り出し、伊吹文明・議長に手渡す。それを読み上げる伊吹氏。
「日本国憲法第7条により衆議院を解散する。ぎょ……」
続きをいいかけた伊吹氏の声をさえぎるように、前方の若手議員たちを皮切りに「万歳!万歳!万歳!」と三唱が始まってしまった。伊吹氏が苦い顔をしながら改めて読み上げる。
「御名御璽(ぎょめいぎょじ)、平成26年11月21日(中略)以上です。万歳はここでやってください」
そこで「2度目の万歳三唱」が行なわれたわけだ。「御名御璽」は天皇の署名と印のこと。その文言を聞かずに「万歳」したのはやはりフライングなのか。
しかし、過去の解散時の映像を検証すると、どれも「衆議院を解散する」と宣言された直後に万歳三唱していた。議事録を遡ると、「御名御璽」以下のくだりが読まれたのは1953年の「バカヤロー解散」と1955年の「天の声解散」時だけである。
少なくとも近年は「解散する」の言葉の直後に万歳していたわけで、“フライング”した議員を責めるわけにはいかないようだ。
では、なぜ伊吹氏は約60年も読まなくなっていた「御名御璽」以降のくだりを読んだのか。伊吹文明事務所に問い合わせると、秘書がこう回答した。
「手元の文書に書いてあることは全部読むのが正式だと判断したようです」
では、解散詔書はどこまで読むのが“作法”なのか。宮内庁報道課に聞くと、
「こちらでは、決まった手順があるとは把握しておりません」
という回答だった。慣例によるならそれでいいけれど、「万歳六唱」なんて恥ずかしいことにならぬよう、次の解散までにしっかり与野党談合しておいてもらいたいものだ。
※週刊ポスト2014年12月12日号