労働時間の規制を取り払って企業の生産性を上げようというホワイトカラー・エグゼンプション(WE)。その強引な制度化は、かえって労働者のサービス残業を増やして「ブラック企業」をのさばらせるだけだ――。
労働者の権利が失われかねない事態に当サイトも度々警告を発してきたが、働く者を“使い潰す”ブラック企業の手口は、国の有効な対策もないままに、より巧妙化している。
11月28日に連合(日本労働組合連合会)が発表した『ブラック企業に関する調査』によれば、<長時間労働が当たり前><仕事に見合わない低賃金><有給休暇が取得できない>との理由から、勤務先がブラック企業だと感じている人が4人に1人いることが判明した。
しかも、驚くべきことに、ブラック企業だと感じていながら、<誰にも相談したことがない>と答えた人が46.8%と半数近くいることが分かった。その理由はなぜか。
『辞めたくても、辞められない』(廣済堂新書)の著書もある人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語る。
「本当に劣悪で耐え難い労働環境ならば、労働組合の相談窓口や、国の労働基準監督署、弁護士のところに駈け込めば未払いの残業代などを取り戻すことも可能です。でも、会社と争うことは『退職』も覚悟しなければならないと思い込み、たとえ理不尽でも我慢している人が多いのです。
中には常識離れの仕事量を押し付けられているにもかかわらず、『就業時間内に終わらず残業になったのは自分の能力が足りないから』と過度な自己責任意識を抱き、心身ともにボロボロになるまで働き続ける人が依然多いのが実態なのです」(溝上氏)
最近は企業側もブラック認定されることにビクビクしていることに加え、人手不足から人材を簡単に切り捨てられない事情もあり、“アメとムチ”を巧みに使い分ける傾向が強くなっているという。
「もっとも多いのは、労働者に『辞めるのは悪だ』と思い込ませる“洗脳”です。退職届を出しても上司から『もう少し一緒に頑張ろう』『いま辞めたらせっかくのチャンスを逃すことになる』などと説得されるケースです。
集団的心理の根強い日本の組織の中で、繰り返し説得されるうちに辞める行為に罪悪感を抱きはじめ、最終的には会社の言いなりになってしまうのです」(前出・溝上氏)
脅して転職活動を妨害したり、執拗なパワハラや暴力で労働者を縛り付けたりすれば立派な犯罪で表面化もしやすいが、そうならないようにブラック企業側も策を講じているのである。
洗脳がもっと進めば、もはや新興宗教に近い“マインドコントロール”も施される。過去の事例の中には、研修と称した泊りがけのセミナーを開き、社員をローソクだけの暗い部屋に閉じ込め、社長の“ガンバリズム”を植え付けたケースも報告されている。