やくざ世界に生きる女たちの生き様を描き、空前のヒットとなった『極道の妻たち』(東映)。シリーズ累計15本のなかでも、とりわけ印象的なのは初代から計8作登場した岩下志麻。
出演した8作の中でも、第1作で妹を演じたかたせ梨乃と取っ組み合いをしたシーンは、特に想い出深いと語る。
「本番はやっぱり、お互い全力でぶつかりあいました。叩いたり、髪を引っ張ったり本気でやり合ったので、髪の毛は抜けるし、着物はびりびりに破けるし。撮り終えた時にはゼェゼェして、めまいがして、控室で休ませてもらった記憶があります。梨乃ちゃんとはほぼ全作でご一緒していたし、本当の姉妹みたい。今も会えば、『お姉ちゃん』と、呼んでくれるんです」
当初の企画では姐さんを毎回違う女優が演じる予定だったが、“志麻姐さん”の人気に4作目で復活。6作目の『新極道の妻たち 覚悟しいや』(1993年)では、香港ロケも敢行。これは岩下のアイディアから生まれた。
「極妻が着物を着て海外を歩いてみたい、と申し上げたら実現したんです。劇中、北大路欣也さんに『あんたを買うわ』というのですが、女性では思いつかない台詞ですよね。脚本家の方がいつもかっこいい台詞を考えてくださった。だけど、あの作品の台詞といえば、やはり『覚悟しいや』よね。私も大好き。未だにイベントなどで『極妻の“覚悟しいや”をお願いします』って、いわれます」
極妻に関するファンレターは今なお届くといい、作品が愛され続けていることを実感すると語る。
「1話完結で毎回違う極妻が登場しますが、どの妻も筋が1本通っている。ただ強いだけでなく、潔さの中に筋を通す生き様が、私も好きなところです。抗争で散った者の位牌に姐さんが手を合わせるシーンなど、古風な人間の気持ちみたいなものもすごく大事にしている。ドライではない、人間臭さも魅力ではないかと思います」
※週刊ポスト2014年12月12日号