経団連が11月13日に発表した今冬のボーナス支給額は、前年比5.78%増の89万3538円(その時点で妥結していた76社の組合員平均)。新聞各紙は「バブル期以来の高水準」と喧伝し「アベノミクス」の功績を称えたが、果たして本当だろうか。本誌が緊急調査した「有名100社の冬のボーナス」はバラ色とはいえない現実を浮かび上がらせた──。
好業績を挙げた企業はどれくらい従業員に還元したのだろうか。100社調査で実態が明らかになった。
例を挙げると、営業利益が480%以上増えた三井化学のボーナスは実質4%増。営業利益54.6%増の三菱電機も実質は6%増だ。これで企業の利益が従業員に還元されたといえるのだろうか。三井化学の30代男性社員が語る。
「利益がボーナスに反映されたとはいえません。好調が続けば来夏には上がるかもと期待しているが……」
しかしそうした期待はすでに裏切られている。従業員に還元されるべき利益は、「別の場所」に流れているからだ。アベノミクスで潤った輸出関連企業やゼネコン業界は計20億円も自民党に献金している。企業の利益からすれば小さな額だが、経営者たちの“儲けたカネを誰に渡すか”の考え方が象徴されている。
そもそも「トリクルダウン」(大企業や富裕層が豊かになれば、その富が広く滴り落ちる)という論理そのものが壮大な詐術だと経済ジャーナリストの溝上憲文氏は看破する。
「現在は製造現場の海外移転など産業構造が大きく変化し、経済学者の間でもトリクルダウンは起きないとされている。安倍首相は法人減税などをバーターに財界と裏で手を握り、政財一体となって国民を欺いていると見るべきです」
大企業が自民党に“お礼”を渡すのも当然なのかもしれない。表を見ると実質ボーナスがアップしているのは安倍政権に近い“お友達企業”が目立つ。
ボーナスが大幅増額となった企業の代表格は、アベノミクス「第1の矢」である金融緩和による円安の恩恵を受けた自動車、電気機器などの輸出企業だ。
V字回復を果たしたマツダは16万円以上アップし、パナソニックは昨冬の平均2割カットから全額支給に復活した。
特にセメント業界にはアベノミクス「第2の矢」の財政出動特需の追い風が吹いた。経団連が発表したボーナス伸び率は14.82%で、10の業種別では最大の伸びだった。
実際に利益をどれだけ従業員に還元したのか。業界トップの太平洋セメントと麻生財務相のファミリー企業・麻生セメントなどに尋ねるも、判を捺したように「額も含めて非公表」との回答だった。経団連は「個別企業のボーナス額は公表しない」とにべもない。
セメント業界同様、アベノミクスの恩恵を受けた金融、証券も今冬のボーナスについて、「非開示です」(三菱東京UFJ銀行)、「公表しておりません」(野村ホールディングス)と一様に沈黙する。
おかしいではないか。企業に賃上げを求めてきた安倍首相は首相官邸のHPで賃上げやボーナスアップを決めた企業を“表彰”していた。今冬のボーナス増は「アベノミクスの象徴」として誇れるはずだ。隠す理由もないし、政府が公表を促したっていいはずである。
金融業界も自民党への献金額を増やしているが、“カネで政策を買って利益をあげた”後ろめたさを感じているのかと勘繰りたくなる。
※週刊ポスト2014年12月19日号