衆院解散前日(11月20日)、安倍晋三首相の側近、萩生田光一・自民党総裁特別補佐が在京民放キー局の自民党記者クラブキャップを個別に呼び出し、選挙に対して偏りのないような報道を求める文書を手渡した。この事実が後に発覚、政権による圧力、言論統制ではないかと物議を醸した。
安倍政権による大メディア統制は選挙情勢報道にも向けられている。
〈自民、300議席超す勢い〉(朝日)
〈自公 300超す勢い〉(読売)
〈自民、300議席うかがう〉(日経)
〈自民300議席超 勢い〉(産経)
〈自民300議席超す勢い〉(毎日)
新聞各社は12月4日付朝刊で、不気味な横並びで自民有利の情勢を伝えた。すでに話はついていた。
永田町には、公示前から「FNN(フジテレビ系ネットワーク)の世論調査の数字」として、「自民300、民主77、公明31、維新35、共産14」という予想獲得議席数が出回り、自民党候補や党幹部職員らがその数字を持ち回って吹聴していた。東京の自民党前職はいう。
「高すぎる予測は困りものだが、300議席という数字も可能性がないとはいえない。有権者に“こんな時期に解散なんかしやがって”という不満があることは肌感覚でわかるが、といって民主や維新に投票するムードではない。消極的ながら自民に入れるか棄権するか、そんな選択になるのではないか」
FNNの数字が出回っていたことは、複数の自民党議員らの証言が存在する。選挙調査は1社が自民圧勝の見通しを出せば他のメディアも引きずられる。その後の新聞各紙の予測数字を見れば明らかだ。
投票前から、メディアが自民圧勝を流せば有権者の投票行動にどんな影響を与えるか。政権に批判的な有権者はあきらめて投票所に足を運ばなくなる。投票率が下がるほど基礎票を持つ自民・公明が有利になる。「自民300議席で圧勝」の情報を流すことで、批判派は「それなら選挙にいっても仕方がない」と思うようになるのだ。
政治謀略にメディアが加担することは、それこそ公職選挙法で禁じた世論誘導そのものである。フジテレビに質した。
「情勢調査は12月上旬~中旬に行ない独自の取材分析を加味したものを報じる予定だ。調査方法など取材に関わることは回答を控える。これからも不偏不党、公平中立な報道を心掛ける」(広報部)
※週刊ポスト2014年12月19日号