12月5日、ニューヨーク・JFK空港でソウル行きの大韓航空086便が滑走路へと移動開始した直後に突然停止した。同便のファーストクラスに搭乗していた同社の趙顕娥(チョ・ヒョンア)・副社長が航空機内でマカダミアナッツを「袋のまま」出され激怒。
「皿に移して提供するのがルールでしょ」と怒鳴りつけ、航空機を急遽搭乗ゲートに引き返させて、サービスの責任者であるチーフパーサーを飛行機から降ろさせるというドタバタがあったためだ。米国では「ナッツリターン事件」と揶揄されている。
この40歳の女性副社長は、大韓航空会長兼CEOの長女。そのワガママお嬢様ぶりが、格差が広がり財閥への不満を募らせる韓国国民の怒りに火を付けた。
趙副社長は米国の大学でホテル経営学を専攻し、卒業後に大韓航空に入社して31歳で役員に就任した。
韓国では彼女はかねてワガママ娘として知られていた。双子を授かった際にはたまたまハワイに転勤、出産直後に韓国へ戻ってきたことが「子供に米国籍を与えて兵役逃れさせようとしている」と非難されたことがある。
今回の事件でも当初は「サービスの欠点を指摘するのは副社長の仕事」と強気だったが、それに対し「航空機内の指揮権は機長にあり、副社長とはいえ越権行為だ」と非難されると、今度は「引き返しは機長がやったことだ」と責任転嫁した。
さらに9日には批判を受けてサービス・ホテル担当の役員の職務から外れることを発表したが、副社長職自体は続けるという往生際の悪さに批判は大きくなるばかりで、結局、翌10日に副社長職も辞任した。
趙副社長の弟と妹も大韓航空の幹部だが、弟は暴力沙汰が報じられるなどトラブル一家として知られている。在韓ジャーナリストの藤原修平氏がこう語る。
「昨年4月に韓国の大手鉄鋼会社ポスコの関連会社役員が大韓航空機内で暴力事件を起こしました。その際に趙氏は、『乗務員の営業妨害を処罰できる法を整えるべきだ』と発言していましたが、今度は自身が航空法違反、強要容疑などで起訴される見通しです」
もっとも、サムスンの李健熙会長のように有罪になっても財閥の力で恩赦となり会社に戻ってくるケースは珍しくない。ほとぼりが冷めた頃には、副社長にリターンする可能性は高い。そういうお国柄でもある。
※週刊ポスト2014年12月26日号