9月下旬、大阪市内のとあるイベントスペースで、100社を超える業務用食品製造業者がブースを出す見本市が開かれていた。
中でも一際賑わっていたのが、「おせち料理食材」を扱う業務用食品製造会社のブースだった。ある百貨店の食品部門バイヤーは「一番の売れ筋は3万円台」と語るが、そんな「豪華おせち」にも、真空パック詰めの冷凍食材がふんだんに使われているのだ。業務用食品製造業者の営業担当が匿名を条件にこう話す。
「大雑把にいえば、3万円の3段重おせちで原価は8000~1万円程度。4段重だと原価は1万3000円くらいになるので販売価格が3万円を超えることになる。もちろん発注ロット数が100を超えるような場合であればもっと安くなる。
有名店の名前を冠していても限定××食といった数量制限を設けていないものはウチみたいな業者の食材を使っていることが多い。一方で20個とか30個といった小ロットで、重箱に詰めた完成品を納めてほしいというオーダーも増えている。
そうした場合は『追加料金を払うから黒豆の上に金粉を乗せてくれ』といったアレンジを頼まれることが多い。その一手間で単なる冷凍品が正月らしく見えてくる。
発注側のメリットは安さよりも手間が省けること。工夫して食材を自前で揃えれば冷凍品を頼むよりもコストは抑えられるが、年末は飲食店も百貨店も繁忙期でそれどころじゃない。だから工場の大量製造品がありがたがられるし、我々のうまみも大きい」
こうした情報をもとに、高級おせちを販売する有名料亭を直撃すると、「お得意様に店でご注文いただいたものは、きちんとうちの厨房で作っている」との答えが返ってきた。では、通販で注文を受けたものはどうかと問うと、答えが変わる。
「百貨店で注文を受ける分に関しても3万9600円以上のおせちは店で作っています。ただ、それ以下の金額の商品は、関連会社の工場で作っている。材料調達をどうしているかは、担当者がいないので詳しくはわからない」
少なくとも有名料亭の名前を冠していながら、その厨房で作られていないおせちがあるのは確かだ。
ある関西の老舗ホテルグループは「ホテルの料理長監修の下、製造を外部に委託しています……。そのくらいで勘弁してもらえないか」と広報担当が暗い声で答えた。
別に偽装表示をしているわけではないので隠すことではないはずだが、やはり後ろめたさを感じているのだろう。
※週刊ポスト2014年12月26日号