毎回、評者に1人1冊を選んでもらう書評コーナー。今回は年末年始に合わせ3冊の本をピックアップしてもらった。精神科医の香山リカ氏が「世の中のウソを見抜く」をテーマにピックアップしたのは、以下の3冊だ。
(1)『江戸しぐさの正体』(原田実/星海社新書)
(2)『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(矢部宏治/集英社)
(3)『世界陰謀全史』(海野弘/朝日新聞出版)
以下、香山氏の解説。
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(1)は快作。文科省推奨の日本式マナーはなんと1980年代に一個人が作ったファンタジー。それが巧妙に啓発する団体やメディアによって次第に「日本の伝統」にねつ造されていく様子を丹念に文献や証言を集めて遡及的に追跡する本書は、ミステリーのような面白さ。
真実に迫る興奮という読後感は、(2)も同じ。本書は名著『戦後史の正体』の企画者によるダイナミックな戦後史読み解きだが、原発と米軍基地、一見異なるふたつの問題のウラにある、日本にとっての最重要ルールがあぶり出されていく。このように真実を探り当てるには手間も時間もかかる。しかし最近、ネットで囁かれる妄言を「これぞ真実」と安易に信じるネトウヨと呼ばれる人たちがいる。
ただ(3)を読むとそのたぐいは大昔からいたもよう。謎の多い世界を理解するために陰謀史観に飛びつく人たちは、社会の複雑化、そしてネットの普及により増える一方なのだという。彼らにつけるクスリはあるのか。
※週刊ポスト2015年1月1・9日号