深刻な症状ではないにも関わらず、気軽に利用する人が後を絶たない救急車。そのため、救急車を有料化したほうが良いのではないかという意見も噴出しているが、意外なことに、この声に反対を唱える救急隊員が多いという。
東京都渋谷区の救急隊員として働くYさんは言う。
「渋谷区は土地柄、急性アルコール中毒を筆頭に、若気の至りで救急車を要請するケースが多い。ただでさえ、そういった安易な発想で救急車を呼ぶことが多く、困っているのが現状です。そこに輪をかけて、有料化にでもしたものなら、『金払ってんだから、早く行け!』『まだ見つからないのかよ!』など、有料を逆手に取って、何を言い出すか分かったものではない。これじゃタクシーの運転手と変わらなくなってしまう」
日本では無料の救急車だが、世界各国はというと、アメリカ・ロサンゼルスでは約4万5000円、ニューヨークでは約3万円、カナダ・バンクーバーは約6万円という具合に、高額の費用を必要とする国も珍しくない。ロンドンやローマなど無料のところもあるが、概ね費用がかかるのが世界の常識だ。
「仮に有料化するにしても、ドイツのフランクフルトのように応急手当にかかる症状によって料金が変動するなどの、線引きが必要です。要請したら一律いくら、というような一括りの設定にしてしまうと、方々からクレームが出ることは明白ですよ」(Yさん)
指を切った程度の軽症で救急車を要請する人と、緊急手術を要するような緊迫した患者が、同じ料金というのは、たしかに腑に落ちない。
「救急車を要請するに値しないような患者は費用が高くなるなど、救急車を要請するということがどういうことなのか、きちんと理解させるような枠組みを作ったうえで、有料化してほしい。それがないと、モンスターペイシェントが増えてしまうだけです……」(Yさん)