中国に飲み込まれる危機を身近に感じる台湾。これは、ある意味日本と同様でもある。そんな台湾の現状を元総統の李登輝氏が語る。
* * *
台湾の人民の間には、このまま台湾は中国に飲み込まれてしまうのではないかという不安が漠然と横たわっている。
日本にも中国の専門家と称する人々がいるが、中国人の本質を理解している人は少ない。中国人の根幹をなす儒教には「曰未知生、焉知死」(生を知らずして何で死を知るか)という言葉があるが、これは生を謳歌すればいい、死のことは考えなくていいという意味だ。そのために中国人というのは、他人を蹴散らしてでも自分の利益を最優先し、いまこの瞬間を楽しめばいいという考え方をする。
今儲かればいいとばかり、将来への投資をしないから、新しい技術が生まれてこず、必然的に「質」ではなく、「量」を作る経済になる。儲かっても再分配せずに独り占めするので、途方もない経済格差が生まれる。
台湾でも日本と同様、経済格差が徐々に拡大しつつある。中国に飲み込まれれば、さらにそれが加速し、台湾も中国のような社会になってしまうのではないかと人民は恐れているのである。
2014年3月、馬英九総統が推進していた中台サービス貿易協定に反対し、学生たちが立法院を占拠し、総統府を50万人で取り囲んだ。ひまわり学生運動である。このひまわり学生運動は11月の統一地方選に大きな影響を与えた。台北市長選では国民党の候補者を医師出身の無所属の柯文哲氏が破り、国民党は6直轄市のうち、台北市や台中市など5市で市長ポストを失い、惨敗を喫した。
馬総統の支持率は10%以下に低迷し、一時は7%にまで落ち込んでいる。私もかつて総統を務めた人間だから、簡単に言うべきことでないのは承知しているが、「これ以上やっても恥をかくだけだから、総統を辞任しなさい」と言わざるをえない。
※SAPIO2015年2月号