ネット上ではよく「メディアが報じない」という文句が使われる。報じられるニュースの分量には限界があるので、すべての物事を報じるのは不可能だ。それを勘案しても重要事件がニュースになっていないという意味で「メディアが報じない」と言われるが、本当に報道格差はあるのか。作家で比較文学者の小谷野敦氏が、報道格差はネットニュースになっても変わらずに存在する例として、アナウンサー内定取り消し事件を例に挙げて解説する。
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日本テレビにアナウンサーとして採用が内定していた女性が、過去に銀座のクラブでホステスをしていたという理由で内定を取り消され、提訴した事件は、大きく報道され、週刊誌ネタにもなっている。私はこのニュースを知った時、「なぜこれが報道される?」という疑問を抱いた。内定取り消しと提訴といった事件は、ほかにも起きているはずだ。
私は何度も裁判を起こしているが、中には、政府や企業を相手どったものもあり、願わくは報道して輿論(よろん)に訴えたいという動機もあって起こしたものがあるのだが、これまで取り上げられたのは、敗訴した際に私への取材もなく記事にした新聞があっただけである。
この世には「報道格差」というのが確実にあり、それはインターネット社会になり、ネットニュースなどが現れても、質は変わっていない。いくらブログで訴えても、報道されないと注目も集められない。
この日本テレビの例は、女性が元ミス東洋英和、相手が大手テレビ局という華やかさのために取り上げられ注目されているのだろう。つまりニュースヴァリューというもので、NHKを除いて、テレビも新聞も所詮は私企業だから、扱いが違ってくるのはやむを得ない。
先ごろ作家の柳美里に対する原稿料の不払いが話題になったが、これとて、柳が有名作家だからニュースになったのであり、原稿料不払いや、企画の突然の打ち切りなどに、文筆家は常々悩まされているのだ。
※SAPIO2015年2月号