安倍晋三首相の唱える賃上げ論は、「トリクルダウン理論」と呼ばれる。アベノミクスによる円安で輸出大企業を儲けさせ、それを社員の給料アップや下請け企業への仕事の発注増という形で還元していく。
「富める人がさらに儲かれば、お金をどんどん使って貧しい人にも行き渡る」という経済理論だ。
前半部分は確かに一部で実現した。円安で経団連の中枢を構成する輸出大企業は大きな利益をあげ、連合加盟の大企業の社員たちは平均「2.28%」という賃上げの恩恵に浴した。
しかし、彼らは「貧しい人々」に分け与えようとはしなかった。
財務省の法人企業統計がはっきりと示している。アベノミクスが始まった2013年度に「資本金10億円以上の大企業」は経常利益を平均約34%も伸ばしたが、「資本金1000万円未満の中小・零細企業」は平均マイナス2%の減益だった。社員20人を抱える電子部品工場の経営者が語る。
「昨年はアベノミクスで景気が上向くことを期待していたから、会社の業績は良くなかったけれども無理して社員の給料を少し上げた。しかし、結果は景気が悪化し、業績も回復していない。昨年の人件費アップが経営に響いている」
だから賃下げは止まらない。厚生労働省の最新の『毎月勤労統計調査』(昨年12月調査)によれば、全労働者平均の実質賃金は16か月連続で減少。アベノミクスにトリクルダウンの効果はなく、日銀の円安政策による物価上昇で「持たぬ者」「貧しい人々」から自動的に吸い上げていることで大企業だけが儲かっているのである。
※週刊ポスト2015年1月16・23日号