プロ野球の名投手・金田正一氏と米田哲也氏、小山正明氏、あわせて1070勝の3人は、日本のプロ野球史における勝利数1位~3位である。彼らトップ3による史上初となる鼎談(ていだん)では、現在の球界における定説「投手は投げすぎてはならない」について意見を戦わせた。果たして、投手の肩は消耗品なのだろうか。
金田正一(以下、金田):とにかく投げ込めという時代だったな。
小山正明(以下、小山):今の連中が勝てないのは投げ込み不足が原因ですわ。最近は押し出しの四球が多いと思いません?
僕らの時代はチームで年に1回あるかないかだったのに。あれも投げ込み不足のせいです。ストライクを投げたくても、投手に投げるコントロールがない。だから僕は「なんで投げ込ませてコントロールを身に付けさせないんだ」というと、あるバカな指導者は「肩は消耗品ですから」という。野球に9つあるポジションで唯一球を投げることが仕事の投手が、球を投げたらアカンてどうするのと。
米田哲也(以下、米田):昔はキャンプでよく投げましたよね。完投しか考えていないから試合で150球投げるために、1日300球投げる。でも今はキャンプでも1日100球以上投げない。これじゃダメですよ。
──故障しなかったのは投げ込んだから?
小山:そう。投げすぎで壊れるわけがない。実際日本で一番投げている我々は壊れてない。そしてそれ以前に大事なのは、カネさんじゃないけど、投げ込める体を作るために走ったから。プロに入ってからはとにかく「走れ走れ」「投げろ投げろ」でしたね。これは財産になったと思う。
僕は今の連中とは練習だけじゃなく日常生活も違うと思うんだよね。僕なんかは阪神の先輩だった藤村隆男さんから「どこに行くにも走れ」といわれたから、駅まで行くのも用事を頼まれても走った。今の選手はどんな近所でも高級車で行くでしょう。その積み重ねがあるとないではエライ違いですよ。
金田:今日は球界の二宮金次郎の話になりそうだな。
米田:僕も若い頃から走りましたね。高校へはバス通学でしたが、練習で夜遅くなるとバスの本数がない。そこで監督にバスの時間まで走らされていました。
金田:走るのは投げるための下半身を作るためなんだ。これを老人3人で強く訴えないとダメだ。
小山:誰もそれを教えられませんからね。ロクにストライクが入らなかったヤツがコーチになって……。
金田:おっ、誰だそれは。名前をいえ。もう守るものなんかないだろう。
小山:可哀想だから名前は伏せます。
金田:ワシがいうたろか。
小山:いやいや、ようけおりますから(笑い)。
米田:(小声で)阪神やな。
※週刊ポスト2015年1月16・23日号