いわゆる「在日特権」が論じられる際、しばしば俎上に載せられるのが「特別永住者制度」の問題だ。在日コリアンなどに認められたこの制度について、いまどう考えるべきか。法学者の八木秀次・麗澤大学教授が問題提起する。
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先日、在特会(在日特権を許さない市民の会)の元幹部と話をする機会があった。彼は「当初、在特会の主張には説得力があり共感する人も多かったのだが、途中からヘイトスピーチをするようになり、違和感や嫌悪感を抱いた人々が次々と会を離れていった。自分もその1人だ」と、脱会の理由を語っていた。
私も在特会の主張の仕方には断固反対だ。ヘイトスピーチは単なる民族差別であり、彼らの言動により保守の言論・運動までもが「レイシズム」と十把一絡げに論じられる風潮に憂慮の念を禁じえない。
そもそも「在日特権」に関わる言説は、在日の人々へ向けられるべきものではない。日本の制度上の問題点を問うべき性質のものだ。
そこで本稿では、一般の外国人や、一定の要件を満たし永住を許可された「一般永住者」と異なり、原則無条件で日本に永住できる「特別永住者制度」を考察する。
特別永住者とは1991年施行の入管特例法で定められた在留資格で、日本の占領下で日本国民とされながら、終戦後に日本国籍を失った(母国に生活基盤を持たない)韓国・朝鮮人、台湾人とその子孫に付与されている。戦後の混乱期にさまざまな事情で母国に帰還できなかった人々に対し、日本への定住性を考慮し永住を許可したものだ。
そうした歴史的背景が当時としてはあった。とは言え、戦後70年、日韓基本条約の締結から50年が経ち、在日コリアンは5~6世も登場している。すでに特別永住者制度の役割は終わったのではないだろうか。
2013年末時点の特別永住者は37万3221人。そのうち韓国・朝鮮人が占める割合は全体の99%、36万9249人に上る。
今日、特別永住者は事実上日本の「準国民」として扱われており、参政権を除けば日本国民とほぼ同等の権利を有している。外国人である特別永住者に参政権がないのは当然で、民族差別とは別問題だ。
現行の日本国憲法が保障する権利や自由は、広く外国人も含め保障されるものと、日本国民だけを対象とするものを性質によって分けている。これを「権利性質説」と言う。
参政権や社会保障などの社会権は本来、日本国民だけを対象としたものだ。国家の意思形成に参画する権利、つまり参政権まで「在日の権利」と主張するのは無理があるのではないか。参政権が必要であれば、日本国民となり権利を享受すれば良いと私は考える。