レストランやラーメン屋などで出てきた料理を撮影し、SNSで公開する例はまったく珍しくないが、老舗の割烹店で写真撮影を禁止された場合、これに従わねばならないのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
ある老舗の割烹店を訪れたときのこと。出された料理をスマホで撮影し、自分のブログにアップしようとしたところ、お店から料理の撮影は禁止だといわれました。そもそも、料理は食べてしまえばなくなるもので、著作権はないと思います。それでも撮影禁止に従わなければいけないのでしょうか。
【回答】
日本料理は見て楽しむ要素があり、芸術的といわれるものもあるとのことです。著作権が保護する著作物は、思想感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、または音楽の範囲に属するものをいうと定義されています。
単に、ありきたりの方法で料理を並べただけでなく、見た目を美しく、焼き加減や盛り付けなどに独創的な工夫を凝らした料理の中には、創作的に思想・感情を表現したものといえる域に達したものがあるかもしれません。
そのような料理の外観は、絵画や彫刻と同様に美術の著作物に該当する可能性があると思います。食用に供するのが目的ですが、食べてなくなるからといって、著作物ではないとはいえないと思います。
例えば、創作性の高い生け花は美術の著作物として著作権の対象になりますが、枯れるまでしか鑑賞できない短時間の運命です。もっと短命なのは氷の彫刻です。創作性が高い彫刻でも、氷の彫刻はすぐに溶けてなくなりますが、溶けるから著作物でないとすると、第三者が写真にとっておいて同じものを作れば、著作権の侵害にならないことになります。これではいかにも不合理です。したがって、料理の外観にも創作性はあると考えられ、著作権はあります。
美術品といえるほどの料理にお目にかかったことはありませんが、当該割烹店には自信があるのでしょう。もっとも、仮に著作物といえなくても、店内での写真撮影を認めるかどうかは店の管理者が決めることです。愉快ではないですが、撮影を制止されてもやむを得ません。見た目がそれほどでもなく、味も大したことがなければ、リピートしなければよいのです。
なお、食品でも工業生産に適したハムやソーセージなどでは、独創的で美観を感じさせる形状が意匠登録されることがあります。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年1月16・23日号