東京都が有識者らを集めて行っている受動喫煙防止対策検討会。2020年の東京オリンピックを見据え、都内の主要公共スペースや飲食店などの分煙もしくは禁煙を義務付ける条例制定も視野に入れたものだが、おぼろげながらも東京の姿勢が見えつつある。
昨年の12月25日に舛添要一都知事が開いた定例記者会見。その席上で記者から条例化の可能性を問われた知事が、こんな趣旨の発言をしたからだ。
【受動喫煙は禁止すべきであるし、きっちりと分煙しないといけないが、外における受動喫煙禁止は、ポイ捨て禁止条例があるので諸外国よりも東京のほうが進んでいる。それをもっと進めながら、喫煙ブースなどオープンスペースの設置に東京都が財政的な支援をすることを考えている。
飲食店などで分煙にしたいがお金がなく工事費が出せずにいる方に都が援助することで間仕切りをやれば、受動喫煙の防止になる。条例化にいく前にそれらの施策をまずやることが必要。(条例化で)罰則をつけても、ハードルが高過ぎるので、できることからやっていきたい】(会見の内容は東京都のHP上でも公開)
都知事の会見に先立ち12月10日に開かれた第2回の検討会では、意見聴取で呼ばれた飲食業やホテル業、中小企業を束ねる商工会議所など各種団体の担当者らが、
「小規模な店舗で完全分煙を義務付けられれば経営が立ち行かなくなる店が多い」
「規制ありきではなく、実効性のある分煙対策をお願いしたい」
と口々に訴えていただけに、舛添知事の「条例化は当面見送る」意向を示した発言は現場の声を汲み取った至極真っ当なものだったといえる。
ところが、<都議会最大会派の自民党が一律規制に異議を唱え、規制強化をトーンダウンさせた>(毎日新聞)との報道や、<都議会やタバコ産業や飲食業界とのしがらみでこんなに早く諦めてしまうとは……>(松沢成文・参議院議員のブログ)といった批判が飛び出す始末。
「何でもかんでも法律で雁字搦めにするのは幼稚な世界」と、一刀両断するのはジャーナリストの大谷昭宏氏だ。同氏はイギリスの喫煙文化を例に挙げて持論を述べる。
「東京の格式あるシティホテルには『シガーバー』がありますが、あれはイギリスからの伝統。シガレットケースとカッターが置いてあり、バーテンダーがロングのマッチに火をつけてお客さんにいろんな葉巻を味わってもらう。イギリスのホテルはシガーバーを用意するのが一つのステータスで、それによってホテルの品格が担保されているのです。
イギリスは先進国でありながら明文化された憲法がありません。憲法なんてなくても政治は回っていくし、その根底には人々がお互いに気遣うマナーがあるのです。東京だってマナーの良い街をアピールすればいい。たばこを吸わないお客さんは愛煙家が集うシガーバーに行かなければいいだけで、それが真の“分煙”だと思います」
大谷氏は逆に条例化を進めることで、こうした多様な文化を受け入れる東京の魅力ばかりか、国民のモラルも低下してくると危惧する。
「舛添知事も言っているように、すでに東京の喫煙マナーは格段に良くなっています。オフィスのフロアでたばこを吸わないのは常識化していますし、外でも喫煙場所を探して吸うのが当たり前。むしろ、飲酒のほうが酔って駅員を殴ったり、盗撮をしたりする人の事件も頻発して手に負えません。
私はこれまでヘビースモーカーでしたから喫煙マナーにうるさいし、酒飲みでしたから飲酒マナーにもうるさい。おまけに愛犬家なので犬の散歩マナーにもうるさい。なぜなら、自分の大事にしているものをきちんと残したいから。そんなマナーを遵守しようという人の意識まで無視してどちらか一方だけを潰してしまえというのは暴論。
ひとつのことだけに特化して国や街をつくろうとすれば、必ずぎくしゃくした対立が生まれます。それはたばこ問題だけでなく、宗教だろうと思想信条だろうと同じ。互いを批判するのは自由ですが、大事なことは両面の文化が共生していることです」(大谷氏)
検討会の中にも、<吸う、吸わないで分けるのではなく、双方が心地よい東京独自のマナーやスタイルを発信すべき>との考えを持つ委員はいる。オリンピック開催に向け、公平かつ良識ある“東京スタイル”の確立を望みたい。