知られざる業界紙や専門誌の世界──。ペット専門誌は珍しくないが、今回紹介するのは「猫の臨床専門誌」だ。
『Felis』(フェーリス)
創刊:2011年
年2回誌:6、12月発売
部数:4500部
読者層:動物病院の獣医師
定価:3908円
購入方法:発行元・アニマル・メディア社に直接注文。
(問い合わせ先 order@animalmedia.co.jp )
「今、日本の獣医師の中で、私と同世代の30代女性はおよそ4分の1を占めるといわれています。医学的な情報を、きちんと読みやすく伝えるためにも、特に女性を意識したデザインにこだわっています」
日本で初めての「猫専門の医療雑誌」を2011年に創刊した編集長・中村真歩さん(38才)はそう語る。
「ここ数年は、国際的にも猫の医療が非常に盛り上がってきています。猫は“小さい犬ではない”ということがさまざまな研究結果から明らかになってきており、とくに本誌創刊の頃からISFM(国際猫医学会)では、猫医学に関するガイドラインを多く発表するようになっています。また、昨年6月には、国内初の猫の医療団体、JSFM(日本猫医学会)も発足しました」(中村編集長)
“ガイドライン”とは、最新の研究結果に基づいて、こういう病気にはこういう治療が有効、と示したもの。
「一般の猫雑誌とのいちばんの違いは、研究論文をベースとし、医学的な根拠を示していること。それが臨床専門誌の強みですね」(同編集長)
実際、〈猫の歯肉口内炎〉〈猫の高血圧を確認しよう〉〈犬とは違う猫の体の仕組みと特有の疾患 血液編〉といった学術的な記事が、次々と掲載されている。
だから、医学知識のない一般の猫の飼い主にはチンプンカンプンな部分もある。赤く爛れた猫の口腔内や、手術中の写真など、目を逸らしたくなる箇所もあり、あらためて“医学雑誌”であることを思い知らされる。
しかし、単なる医療レポートの集合体ではなくて、後半には猫好きなら思わず「きゃっ」と声をあげそうな、自然でかわいい猫写真もある。そして何より、寄稿する書き手や、獣医師の猫に対する愛情が誌面から溢れている。
ある獣医師は、『「猫が好き」なことが猫の治療の際に一番のポイント』とし、〈犬は具合が悪ければ、不調を訴えたり甘えたりする表情が比較的わかりやすいのですが、猫は誰にも触れたくない、どこかに身を隠してじっと1人で我慢している…それを見るのはとても辛いことです〉と“猫愛”を語る。興奮気味の猫を診療するときは〈タオルでそっと包み、まずは後ろから静かに触ってみます〉というから、その柔らかな手つきまで目に浮かぶ。
また、『闘病日記(異物誤飲編)』によると、異物誤飲するのは0歳齢が最も多く、〈飼育に関する十分な説明を受けていない〉譲り受けた猫や、野良猫の飼い始めに起こるそう。そして飼い主による闘病記を次のように記載する。
〈CASE1 症例:3歳齢、雄 主症状 吐いている 診察・検査・治療内容:触診、視診、X線検査(バリウム使用)、点滴、注射など 通院・入院総回数:20 予防への取り組み:異食癖があるため、猫が食べられるような布類は…置かないように心掛けている。…知らないうちに食べるかもしれないので、たまに便を分解して確認している。総費用:30万円未満 完治までの治療期間:1か月以内〉
〈CASE2 症例:1歳齢、雄 症状を初めて確認したときの状態:ふさのついた猫じゃらしで遊んだあと、飼い主が…部屋に戻ると猫じゃらしが異常に短くなっており、その破片が見当たらなかった。診察・検査・治療内容:…注射を打ってしばらくすると、口元をなめ始めた。吐き気のサインのようだった。
その後、1、2分ではき出し…。予防への取り組み:おもちゃで遊んでいるときは目を離さない。…人間が食べないだろうと判断しても、猫も同じように判断するとはかぎらない… 同じ症状をもつお友達にひとこと:…発見が遅くなったりして、腸閉塞などになることもあるようです。総費用:1万円未満〉
「異物誤飲で特に注意いただきたいのはユリの花粉。猫にとっては、体についたものをなめると死にいたるほどの猛毒です。こうした、これまであまり知られていなかった注意点も含め、最新の医学情報を、もらさず掲載していきたいですね」と今後の抱負を語る中村さんは、別れ際、目をパチ、パチとゆっくり瞬きして、「これ、初対面の猫との挨拶です」と教えてくれた。
猫にとって快適な環境について、10ページにわたり多角的に解説した企画は獣医師に大好評だった。
取材・文/野原広子
※女性セブン2015年2月5日号