昨年まで、青森県にある航空自衛隊三沢基地の空自第3航空団飛行群本部で空士長を務めていた山本和樹氏(仮名)。パイロットの飛行管理や資格管理を主な任務とする飛行管理員を務めていた山本氏は、覚悟の告発をした。
空自のパイロットが1年に1度受けなければならない資格試験で、不正が横行しているという内容である。試験会場がなく、試験監督もいない。問題用紙と答案用紙をパイロットに渡し、空いている部屋で解かせる。解答を調べながら答案をまとめてもバレないので、落第する人はほとんどいなかった。ベテラン幹部たちには模範解答のコピーさえ渡されていたという。組織的なカンニングの横行に、山本氏は、やがて罪の意識に苛まれるようになった。
「私はパイロットたちの適性を見極める立場。それが遺憾ながら組織的なカンニング、点数の改ざんに手を染めてしまった。それらの行為は公文書偽造罪にあたる可能性もあります。何より国防を担う立場にいる人間が、不正をしていいわけがない。私は罪の意識に押しつぶされそうになり、昨年、航空自衛隊を辞めることを決意したのです」(山本氏)
山本氏は直属の上司である主任に辞意を告げた際、理由を問われ、試験の不正と、その片棒を担ぐことに耐えられなくなった旨を伝えた。驚いたことに上司は「自衛隊のやり方が合わなかったんだな」と、あっさり受け流したという。
上司の反応にショックを受けた山本氏は、自衛隊員の秩序維持に従事する警務隊に告発することを決意した。告発文書を提出し、ヒアリングも受け、不正の中身を説明した。彼らは驚いた様子で、不正を知らなかったようだったという。
警務隊に告発したことで、不正を正すことができる──当然、山本氏はそう考えた。しかし、期待とは真逆の結果が待っていた。
「私の告発文には、不正に加担していた上司の実名を挙げていたのですが、彼らから即刻、事情聴取を受けました。三沢基地の複数の幹部に囲まれ、私は恐怖を覚えるほど厳しく詰問されました」(山本氏)
山本氏は彼らに脅迫めいた言葉を何度も浴びせられたという。
「ある幹部からは『こんな文書を提出するなら名誉毀損で訴えるぞ。頭で戦うか? 俺は負けない』といわれ、別の幹部からは『俺は法律に詳しいんだ。政治家の知り合いもいる。やり合うなら全力で潰す』とか『国家権力を使って追い詰めるぞ』とまでいわれました。5時間にわたる彼らの威圧的な態度と言葉に耐え切れず、『この告発を取り下げろ』という彼らの要求をそのときは受け入れてしまいました」(山本氏)
これが事実であれば脅迫罪にあたる可能性がある。
しかし翌日、このまま不正を野放しにすることだけは避けたいと思い、三沢基地を所管する北部航空方面隊に内部通報し、自衛隊を辞職した。
※週刊ポスト2015年2月6日号