一向に収まる気配の見えないシリア内戦。イスラム国の脅威は増し、日に日に、戦況は悪化するばかりだが、そんな内戦を高い場所から見学する人々が、隣国イスラエルには存在する。
世界有数のワイン生産地として知られるゴラン高原。イスラエル北東部、シリアに接する平均標高1000m、全面積12000平方kmの規模をほこる高原で、十字軍の城(遺跡)などもあるイスラエルでは有数の観光地、保養地として知られている場所だ。
目の前がシリアというヘルモン山(2814m)では、冬ともなると国内唯一のスキーが楽しめる場所とあって多くのイスラエル人が訪れる。実はこのヘルモン山をはじめ、ゴラン高原にある標高の高い山に行けば、隣国・シリアの戦闘状態――それこそミサイルが飛んでいく世にも恐ろしい光景を見物できてしまうのだ。こういった光景を一目見ようと、イスラエル人はもちろん、この地を訪れた観光客がわざわざ戦闘が見える場所まで行くことも珍しくないという。
気になるのは安全面。第3次中東戦争の激戦地でもあったゴラン高原には、いまだたくさんの地雷が埋まっているため、好き勝手に歩くのは自殺行為。とは言え、安全なゾーンがマップで紹介されているなど、ルールさえ守れば、普通に観光も可能なのだという。なんといっても、普通にワイナリーがあるくらいなのだから。
「ミサイルが飛んでこないのか?」という疑問に対しても、イスラエル人はどこ吹く風。あるイスラエル人は、「シリアとレバノンはイスラエルを敵に回すということがどういうことなのか分かっている。わざわざ自分たちを窮地に追い込むようなことはしない」と豪語する。
たしかに、ゴラン高原には自衛隊のPKOが長年にわたって派遣され、シリアのアサド政権が米国とイスラエルのコントロール下に置かれていたことから、「もっとも安全な地域」とまで言われていたほど。シリア内戦悪化に伴い、2014年8月にゴラン高原にシリアからロケット弾が着弾してしまった際も、イスラエル人はそんなに重く受け止めていないのだから恐ろしい。
行くか行かないかはその人次第だが、イスラエルには“シリア内戦を高みの見物できる”場所があるというのは事実である。