日本人の死因の多くは「がん」によるものだが、その多くが「がんもどき」であるとし、『がん放置療法のすすめ―患者150人の証言』 (文春新書)などの著書がある医師・近藤誠氏が、がん治療の現状を解説する。
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海外では最近、がん検診による“過剰診断”が問題になっている。米国の比較試験では、検診を受けた群の肺がん死亡者が未検診群を上回った。他の比較試験でもがん検診の有効性が否定されており、スイスやカナダなど、科学的知見から各種がん検診をとりやめる勧告を出した国も多い。
ところが日本では病院、医師、医療機器メーカー、厚労省などが「がん検診・治療ワールド」を結成し、過剰診断で健康な人を「がん患者」に仕立てている。そして「がんもどき」を「治すべきがん」として、手術や治療など「医療介入」を始める。最大の問題は、その「がん治療」が患者の寿命を縮めることだ。
たとえば手術と放射線治療で治療成績に差がない部位のがんでも、外科医は手術で切除したがる。しかし、人間に本来備わっている臓器を摘出すれば、当然患者の体全体に悪影響が生じる。手術によって患部の抵抗力が落ち、がん細胞が増殖する危険もある。
抗がん剤もリスクだらけだ。急性白血病や悪性リンパ腫、小児がん、睾丸腫瘍、子宮絨毛がんは抗がん剤で治る可能性があるが、がんの9割を占める肺がん、胃がん、前立腺がん、乳がんなど固形がんに抗がん剤を投与すると、正常な細胞まで破壊する。吐き気、脱毛、食欲不振などの症状が出る他、最悪の場合は骨髄、循環器、消化器など生命にかかわる重要な生体機能を低下させ、患者を死に追いやる。
日本の年間40万人近いがん死のうち、大半がそうした「治療死」と考えられる。つまり、がんが怖いのではなく、がんの治療とそれを行なう医者が怖いのである。
多くの日本人はがんと診断されると思考が停止してしまい、医者の言いなりになりがちだ。がんと告げられれば大きなショックを受けるだろうが、患者は自分でできるだけ正確な情報を集め、押し寄せる不安には知性と理性を用いて対抗してほしい。
※SAPIO2015年2月号