パワハラやDV、虐待、ネット上の中傷など、現代社会は多方面からの攻撃のリスクに溢れている。こういった不条理な攻撃に対し、我々はどう対処すれば良いのか? 精神科医の片田珠美さんが解説する。
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先行き不透明な社会状況を反映してか、「攻撃の連鎖」と見られる事例が相次いでいます。パワハラ、DV、児童虐待、ネット上の誹謗・中傷の書き込み、駅員への暴言・暴行などは、自分が他から攻撃されて溜まったフラストレーションのはけ口を、より弱い相手に向けていると言える。問題は、八つ当たりのように「攻撃の連鎖」に加担する人、あるいは逆に攻撃されて心身を壊す人が多いことです。
実際、精神科外来や企業のメンタルヘルス相談で話を聞くと、職場や家庭など身近に攻撃者が潜んでいるケースが実に多い。しかも、本人は心身に不調をきたすまで気付かないのです。“正義”を振りかざして罪悪感に訴えてきたり、偶然かワザとかわからないような陰湿な方法で追い詰めてきたり……中には味方のような顔をした「フレネミー(フレンドとエネミーの造語:友を装う敵)」もいるからです。
攻撃に対しては戦うか逃げるかですが、攻撃者が職場の上司だったりすると、どちらも現実的ではない。私は、間をとって「ちょっと戦う」「ちょっと逃げる」ことを提案します。できるだけ顔を合わせないようにするとか、飲みの誘いを丁重に断るとか、できることは意外と多い。言葉を真に受けずスルーするにも、攻撃に気付くかそうでないかで心的負担はずいぶん違います。心身に不調をきたすまで破壊されずにすむし、さらに弱い相手を攻撃せずにすむ。
「いつかは自分をわかってくれる」「やめてくれる日がくる」など、攻撃者に期待するのは間違い。現実と願望を混同してはいけません。理想や正義を掲げている人ほど注意が必要。自分が「絶対正しい」と思っている“根性曲がり”につけるクスリはないのです。
※SAPIO2015年2月号