イスラム国による日本人人質事件で、安倍政権は野党やメディアの批判を「テロを擁護している」とのレッテル貼りで封じ込め、報道をコントロールしようとしている。
米国との関係も、政府はねじ曲げて報じさせている。新聞各紙は1月22日の中谷元・防衛相とヘーゲル米国防長官との電話会談を「人質救出で連携確認」(朝日、産経ほか)と報じ、その後、中谷氏が在日米陸軍司令官と会談すると、「緊密な連携を確認した」(読売)と、いかにも日米が一体で人質交渉にあたっているかのように報じた。
実際は逆だった。米国務省のサキ報道官は記者会見(1月22日)で、「身代金の支払いはかえって人々を危険にさらすというのが米国の考えだ」「我々の立場は非公式に日本政府に伝えてある」と、水面下で身代金交渉を行なっている安倍政権に強い警告を発していたのである。
安倍政権は米国に不信感を持たれていることを隠すために、国防総省側と「緊密な連携」をしていると大本営発表を続け、メディアに書かせたということだろう。政府に唯々諾々と従ってきた大メディアは、いまや自ら「報道の自由」を投げ出してしまった。
フジテレビはコメディ・アニメ『暗殺教室』の放映を中止し、テレビ朝日『ミュージックステーション』は、出演バンドの歌詞にある「血だらけの自由」を「幻の自由」に変更して歌わせた。
「安倍批判=イスラム国加担」という論理を振りかざして政権批判の論調を封じ込めたメディアが、今度は「こんなときに不謹慎」と自分たちが批判されることを恐れて自主規制に走る。自粛ムードの中では一層、政権批判がしにくくなる。
政府とメディアが「オレたちが情報を握っていれば互いに悪いことにはならない」と手を組み、国民に真相を知らせず政権支持に誘導する。やり方は、安倍首相が官房長官として仕えた小泉政権時代の郵政民営化をめぐる国民をバカにした世論操作の手法と通じる。
当時、小泉政権は支持基盤の中心である主婦やシルバー層などを「IQが低く、具体的なことはわからないが、内閣閣僚を何となく支持する層」と位置づけて「B層」と呼び、広報戦略のターゲットに据えて政権への賛成を訴えた。
安倍政権はもっと極端に、「安倍を批判するものはテロリストの味方」と乱暴な論理で支持層に反対派を潰せとけしかけている。これはイラク戦争に突き進んだ際に米ブッシュ政権が使った手法を真似たものだ。ブッシュ氏は当時、テレビに出演しまくって、「愛国者なのか、テロリストの味方なのか」と国民を脅した。
人命も言論の自由も軽視された今回の事件は、より大きな国家の危機を暗示している。
※週刊ポスト2015年2月13日号