民主化を求める学生らを戦車や軍靴で踏みにじった1989年春の天安門事件前夜、混乱の拡大を懸念した中国共産党最高指導部メンバーが北京のスイス大使を通じて、莫大な資金をスイスの銀行の秘密口座に送るとともに、自らも家族らとともに海外に脱出する準備を整えていたことが分かった。
英紙「デイリー・テレグラフ」(電子版)が北京のカナダ大使館が本国外務省に送った公電の内容として伝えた。これらの事実が明らかになるのは初めて。
これらの公電は数千ページに及ぶが、すでに秘密指定が解除されたもので、オタワの公文書館に収められている。
同紙は「公電によって知る、非道で残虐な天安門事件の新事実」との見出しを掲げて記事を掲載。ある公電は「中国共産党最高指導部が政権を失う恐怖心は、人々の想像をはるかに超えていた」としたうえで、「この国(中国)は数人の邪悪な老人たちに操られ、これからもずっと暗黒の中を突き進んでいくに違いない」とカナダ外務省に報告しているという。
公電は、軍の投入を強く主張した当時の李鵬首相らが政府高官を通じて、当時のスイス大使に対して、「万が一のために備えて、これまでの秘密口座を通じて、政府の資金を送金したい。手数料はいくらかかっても構わない」などと語り、資金の送金を要請したとの情報を伝えている。
また、他の指導者も「すでに中国人民解放軍の軍用機を使って、スイスに飛ぶ準備を整えていた」としており、当時の中国指導部が学生らの民主化運動によって、かなり動揺していたことを物語っている。
さらに、天安門事件で中国当局が民主化学生や市民らを弾圧した残酷な場面も公電に記録されていた。
「老婦人が学生の命を助けるようにと、兵士の前にひざまずいて懇願したが、兵士たちは老婦人の言葉を無視して、その場で彼女を射殺した」や、「兵士と学生らの戦闘のなか、2歳ほどの幼児をベビーカーに乗せた母親が往来を逃げ惑っていたが、戦車がものすごいスピードで走ってきて、容赦なくベビーカーと母親をひき殺して行った」などと、人民解放軍が無辜(むこ)の市民を殺害する凄惨な様子を描写している。