甲状腺は、喉仏の両側にある羽根を広げたチョウチョのような形をした臓器で、新陳代謝を調整する甲状腺ホルモンを産生している。甲状腺の病気としては、機能亢進(こうしん)するバセドウ病や反対に機能低下する橋本病が知られるが、意外に多いのが甲状腺腫瘍だ。
自覚症状はほとんどなく、気づくと首の下の片側にこぶ状の塊やしこりを発見する。3センチ以下の小さい腫瘍は、頸動脈超音波検査や健康診断で発見されることも多い。腫瘍は良性も悪性もあり、簡単に判断できないので、しっかりした診断が必要だ。
昭和大学横浜市北部病院外科系診療センター長で副院長の福成信博教授に話を聞いた。
「診断はまず、高機能の超音波で検査し、画像を見ながら針を刺して細胞診断を行ないます。さらに、血液検査で甲状腺機能や腫瘍マーカーを測定します。しかし、良性か悪性かの判断がつきにくいタイプもあります。仮に悪性腫瘍と診断されても、大半は発育が遅く、おとなしいものです。ごくまれに、急激に成長する悪性度が高いがんもありますが、多くはおとなしいので、チェックさえすれば、怖くはありません」
治療は良性でも5センチを超えるかなり大きなものや、がんの場合は手術を選択することが多い。以前は、しこり全体を大きく切除する方法が採られていたが、見栄えが悪く、攣(つ)ることもあった。そこで手術にあたり、事前に傷が目立たないデザインの切り方を考慮し、シワに沿って、できるだけ傷口が短くなるように切除するなど、審美的な方法を実施している。
さらに、この施設では全国で初めて甲状腺腫瘍のラジオ波焼灼(しょうしゃく)治療(RFA)を実施している。RFAは肝臓がんの患者を対象に、2004年から保険承認されている。患者への負担が少なく、安全性と効果が確認されている上、肝機能への影響も軽微で再治療が容易である点で、現在の治療の主流となっている。
ラジオ波焼灼治療は、甲状腺腫瘍では保険承認されておらず、全額自費診療で入院費用を含め30万円程度だ。
甲状腺機能障害は女性に多いが、甲状腺がんに限ると、男女比はそう変わらない。首にしこりを感じたら、専門医の受診が欠かせない。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2015年2月27日号