日本政府が2000年に開始した中国での「遺棄化学兵器処理事業」は、予算の使途が不透明なことから“第2のODA”とも呼ばれ、1兆から数兆円規模の巨大事業になることが懸念されてきた。中国側の言いなりで投じられた血税はすでに1400億円超。ジャーナリスト・水間政憲氏が同事業の闇を暴く。
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中国での処理事業は、2000年9月に黒竜江省で発掘・回収作業が開始された。現在は吉林省ハルバ嶺の処理施設のほか、2基の移動式処理施設が武漢と石家荘で稼働。これまで5万発を回収、3.7万発が処理されている。
ただし、その9割は発煙筒や通常砲弾の類だ。呆れたことに日本政府は、CWCで化学物質と定められていない「あか剤(嘔吐剤)」や「みどり剤(催涙剤)」、「しろ剤(発煙剤)」まで〝有毒兵器〟として処理しているのである。
ちなみに2基の移動式処理施設は、2007年4月に訪日した温家宝・首相の唐突かつ強い要求を日本側が呑む形で導入されたものだ。中国はCWCを批准しながら自国の処理施設と処理能力を一度も公開したことがなく、日本の施設と技術者が人民解放軍保有の化学兵器廃棄に利用されている可能性すらある。
同事業を巡っては過去、日本のコンサルタント会社による資金不正流用が事件化(*注)したほか、中国に流れるカネの不透明さが問題視されてきた。
【*注/大手コンサルタント会社PCIが2004年から2006年にかけて中国遺棄化学兵器処理事業に関わる人件費を内閣府に水増し請求し、約2億9800万円を騙し取った事件】
2005年10月31日付の産経新聞によると、ハルバ嶺の処理施設建設に伴う森林伐採で中国側が要求した代償は白樺1本につき100ドル(相場は2~3ドル)。百葉箱を使った気温や風向計測などに「環境関連諸費」として1千数百万円が投じられた。また、現地には産婦人科医を含む医師団が派遣され、これらの費用をすべて日本が負担したという。
この他、ヘリポート建設や軍用車両が通行可能な道路の整備を要求した過去もある。
※SAPIO2015年3月号