前回総選挙の公示日前日、格付け会社ムーディーズは日本国債の格付けを「Aa3」から「A1」に1段階下げた。それにより日本国債の信用力は中国・韓国よりも1段階低くなった。このタイミングでなぜ格下げが行なわれたのか。ワールドゴールドカウンシル日本代表の森田隆大氏が指摘する。
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国債の信用力を示す格付けは、発行母体である政府の「支払い能力」と「支払い意欲」を評価して行なわれる。今回、ムーディーズが日本国債を格下げした理由は、安倍首相の消費増税延期の決定を「支払い意欲が低い」と見なし、財政再建の達成に「不確実性が高まった」からとされている。
しかし、今回の格下げでデフォルト(債務不履行)リスクが大きく上昇したわけではない。ムーディーズがまとめた過去20年間の統計によると、「Aa」の5年後デフォルト率は0.97%、「A」は同1.31%とほとんど変わらない。日本国債のリスクが相対的に高まっていることは事実だが、今回の格下げはあくまで微調整に過ぎず、国として信用性が損なわれるレベルではない。
むしろ深刻なのは、金融機関や企業への影響である。金融機関や政府系機関の信用評価には“政府からのサポート”が織り込まれているため、国債が格下げされれば、それら機関の信用力も下がる。実際、今回の国債格下げに伴い、ムーディーズは5つの銀行、2つの生保、12の政府系事業体について、次々に格下げを実施した。
格下げされた銀行は、例えば海外で資金調達する際、金額や借り入れ年限などの条件が悪化し、調達能力が低下することになる。メーカーなど海外で活動する日本企業の多くは邦銀から資金を借り入れているため、それら企業の資金調達能力も下がる。
現地金融機関から調達しようとしても、格付けをもとに「リスクが高い」と判断されれば、海外プラントの建設費用を市場から調達できなくなったり、公共工事の入札で拒否されるケースも考えられる。海外ではそれほど格付けが重視され活用されているのだ。
現在業績が好調で「Aa」ランクの企業でも、今後、1年程度のタイムラグを経て国債と同じ「A」に格下げされる可能性は極めて高い。
※SAPIO2015年3月号