700ページをこえる専門書『21世紀の資本』がベストセラーになっている。この書籍によって世界中で経済的格差について大きな議論を巻き起こしているが、格差は医療分野にも及んでいるという。ベストセラー『がんばらない』著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏が、アベノミクスによって長寿国日本の地位が危うい状況について解説する。
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国際非政府組織「オックスファム」は貧困と不正を根絶するための持続的な支援を行なっている団体だ。その「オックスファム」が、先月「世界で貧富の差がさらに拡大していく」と発表した。
このままいくと来年には、もっとも裕福な上位1%の資産合計が、その他99%の資産合計を上回ると予測したのだ。2009年は上位1%の資産は世界の44%だったが、2014年には48%に増えた。それがもうすぐ50%を超えるというのだ。
一方、下位80%の庶民の平均資産は、その上位の資産の700分の1というから驚きだ。さらに、下位50%が保有する資産の合計は、最富裕層のわずか80人分に等しくなったとしている。
富める者が異常に豊かになり、貧しい者たちが置き去りにされていく歪んだ現実が見えてくる。世界では9人に1人が、十分な食料さえない状態だという。
世界的に話題のフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』によれば、この300年ほどで、資本から得られる収益率は4~5%だったのに対し、経済成長率は1.5%程度だった。このため、賃金の上昇率よりも、資本を持った人が資本を増やしていく勢いに勝てないことを証明した。
しかし、富の分配はかなり政治的なものでもある。わが国のアベノミクスなどは、まさにその典型だろう。
昨年、政府は消費税を8%に引き上げた。これは貧困層に大きなダメージをもたらした。一方で、今後は法人税を下げ、雇用の自由化を進めるというが、そうなればますます格差が大きくなっていくはずだ。
この影響は健康にも及ぶと、医師として僕は考えている。今まで格差があまりなかったことで、日本は健康長寿国でいられた。